『アムステルダム』なぜ北米で大苦戦? 『Smile』は『ゲット・アウト』以来の快挙

『アムステルダム』なぜ北米で大苦戦?

 低予算のホラー映画が、ファミリー向けのミュージカル映画や豪華キャストによる群像劇を相手に大勝を収めた。10月7日〜10月9日の北米週末興行収入ランキングは、公開2週目の『Smile(原題)』がV2を獲得。3日間で1760万ドルを記録し、早くも北米興収は約5000万ドルとなっている。

 製作・配給のパラマウント・ピクチャーズにとっては嬉しい誤算だ。わずか1700万ドル(宣伝・広報費を除く)で製作された『Smile』は、もともと自社の映像配信サービス「Paramount+」でリリースされる予定だったのだ。試写の好評を受けて劇場公開に切り替えたところ、批評家や観客の評価も高く、口コミ効果で動員を伸ばし続けている。

 先週からの下落率は-22.2%にとどまっており、R指定のホラー映画としては、ジョーダン・ピール監督の長編デビュー作『ゲット・アウト』(2017年)の-15.4%以来の快挙。本作を手がけたパーカー・フィン監督もこれが長編デビューとあって、今後のホラー映画を牽引していく才能として注目されることは間違いないだろう。

 第2位に初登場した『Lyle, Lyle, Crocodile(原題)』は、児童書『ワニのライルのおはなし』に基づくミュージカルコメディ。主人公・ライルの声を人気歌手のショーン・メンデス、飼い主・ヘクターを名優ハビエル・バルデムが演じている。音楽は『グレイテスト・ショーマン』(2017年)、『ディア・エヴァン・ハンセン』(2021年)のベンジ・パセック&ジャスティン・ポールらが手がけた。

映画『LYLE, LYLE, CROCODILE(原題)』予告編

 本作の初動成績は3日間で1150万ドルと、4350館という公開規模を鑑みても、製作・配給のソニー・ピクチャーズとしては期待値に届かないスタートとなった。ただし、北米で10月10日は祝日の「先住民の日」にあたるため、ファミリー層のさらなる動員が見込め、4日間の成績は1340万ドルとなる予測。製作費も5000万ドルと抑えめとあって、このままの勢いで推移しても大きな痛手は負わないとみられている。

 今後の鍵を握るのは口コミで、なにしろ本作は観客からの支持が厚い。Rotten Tomatoesの批評家スコアは69%とまずまずの評価ながら、観客スコアは94%という好記録。観客の出口調査に基づくCinemaScoreでも「A-」判定という高評価だ。別の出口調査でも、観客の80%が好意的に評価し、60%以上が「人に薦める」と回答している。日本公開は未定だが、ぜひ大スクリーンで体感したい。

アムステルダム
『アムステルダム』©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

 続く第3位で初登場したのは、オールスターキャストによるスリラー・コメディ『アムステルダム』。クリスチャン・ベール、マーゴット・ロビー、ジョン・デヴィッド・ワシントン、ラミ・マレック、ロバート・デ・ニーロ、ゾーイ・サルダナ、マイク・マイヤーズ、クリス・ロック、アニャ・テイラー=ジョイ、テイラー・スウィフトという「よくぞここまで集めた」という顔ぶれが見どころだ。

 この豪華キャストに加え、監督・脚本は『アメリカン・ハッスル』(2013年)のデヴィッド・O・ラッセル。作品的にも興行的にも完璧な布陣……と思いきや、そう簡単にいかないのが映画の難しさであり、また面白さでもあろう。初動成績は3日間で650万ドルと、製作費8000万ドルというスケールを抜きにしても厳しすぎる滑り出しとなった。

『アムステルダム』©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

 どう見ても話題作、どう見てもヒットするはずの本作が、なぜ苦境に立たされたのか。すべては事前の悪評と、それを乗り越えられなかった「時代モノ」+「トリッキーな脚本」という宣伝的な“売りにくさ”にある。ディズニー/20世紀スタジオは当初、本作を「公開直後に2000万ドルを狙える」と見ていたようだが、9月中旬のワールドプレミア後に批評家からの厳しい批判が出るや、目標を1000万ドルへ下方修正。豪華キャストをひたすら推す作戦に出たが、実際には1000万ドルにも遠く及ばなかった。

 『アムステルダム』はRotten Tomatoesにて批評家スコア34%、観客スコア61%を記録し、CinemaScoreでも「B」評価となった。このことは、本作が目の肥えた批評家のみならず観客の期待にも応えられなかったことを表している。こうなると口コミで動員を伸ばすことも難しく、興行的には撤退戦に入らざるをえない。日本公開は10月28日だが、果たしてどのように受け止められるか。

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