『銀河英雄伝説』の魅力はキャラクターにあり! 対照的な2人の天才を支える盟友たち
田中芳樹の小説『銀河英雄伝説(以下、銀英伝)』をアニメ化した『銀河英雄伝説 Die Neue These』フォースシーズン「策謀」第一章が9月30日から上映中だ。
『銀英伝』は、遠い未来、人類が宇宙に進出した時代を舞台に、専制政治を敷く銀河帝国と民主主義を掲げる自由惑星同盟の戦いを描いた作品だ。人類の歴史上、繰り返されてきた戦い、緻密な軍略、政治の腐敗と権謀術数が渦巻く中、多くの登場人物たちが自分たちの大切なものをかけて生き抜く姿を描く壮大なスペースオペラとなっている。
80年代に発表された本作が、今なお多くの人の心を捉えているのは、その深遠な世界観と並んで、多数の魅力あふれるキャラクターが織りなす重厚な人間ドラマがあるからだ。本稿では、そんなキャラクターたちにスポットをあて、本作の魅力に迫りたい。
銀河の運命をも左右したキルヒアイスの死
本作は、銀河帝国と自由惑星同盟それぞれの勢力に主人公が置かれ、対比的に物語が進行していく。門閥貴族による長年の専制政治が腐敗しきった銀河帝国側の主人公、ラインハルトは皇帝の寵姫となった姉のアンネローゼを取り戻すために、銀河帝国ゴールデンバウム王朝の打倒を決意する。
そんなラインハルトを幼少の頃から支えるのがキルヒアイスだ。ラインハルトにとって唯一心を許せる存在であり無二の親友である温厚な性格のキルヒアイスは、敵を作りやすい性格のラインハルトのブレーキ役であり、彼らは常に一緒にいる間柄であった。
帝国を手中にし全銀河を支配するという壮大な野望を持つラインハルトだが、その心は姉とキルヒアイスへの想いに支えられている。だからこそ、キルヒアイスの死はラインハルトにとって決定的な喪失となってしまった。銀河を手に入れる野望に邁進している最中に起きたキルヒアイスの死は、ラインハルトに自身の野望を思いとどまらせるどころか、キルヒアイスの最後の言葉「宇宙を手にお入れください」によってより強固なものとなってしまう。
しかし、その死をきっかけに姉もラインハルトの元を去り、孤独となったラインハルトは、心に穴を抱えたまま止まれなくなり、銀河統一の道を歩み続けることになる。
ラインハルトの参謀であるオーベルシュタインもまたゴールデンバウム王朝打倒の意思を持つ人物だ。現在の帝国を一新するという野望のためにラインハルトに付き従うが、その指摘は常に冷静、時に冷酷ですらある。人道的な対応を心掛けるキルヒアイスとは対照的な人物で周囲からも恐れられているが、一匹の犬に対しては情愛を見せる一面もある。ラインハルトは彼の実力を高く評価しているが、信頼しきっているというわけではない。それはオーベルシュタインも同様である。
帝国の実権を握ったラインハルトは、帝国の双璧と呼ばれるミッターマイヤーとロイエンタールをはじめ多数の部下たちからも信頼されている。だが、ラインハルトにとって、本当の意味で心を許せる存在はキルヒアイスしかいない。彼が野心に邁進すればするほど、孤独は深まっていく。
そんな彼の孤独にいち早く気が付くのが、ヒルダだ。銀河帝国陣営の軍関係者ではほぼ唯一の女性キャラクターである彼女は、政治・経済において屈指の慧眼を持つ才女である。キルヒアイスの死後、ラインハルトの心の穴を埋められる可能性は、唯一彼女だけが持っていると言える存在だろう。
孤高の覇道を歩むラインハルト。キルヒアイスと姉を失った空虚な野心だけが残る彼の胸中を知るものは少ない。「もし、あの時キルヒアイスが死ななければ……」と思うような瞬間が度々訪れるのだ。