『邦キチ! 映子さん』から学ぶコンテンツ受容のスタンス 自分の“好き”を見失わないために

 情報もコンテンツも膨大な今、“流れ”にふりまわされず、自分の“好き”を見失わないようにするには、どうしたらいいのか。ある種、『邦キチ!』は、そうした葛藤に対応している漫画である。たとえば、取り上げられる作品には、映画ファンの間であなどられやすい作品も多い。しかし、漫画としては、インターネットコミュニティが向かいがちな「あの映画は徹底的にこき下ろす」的スタンスが意図的に避けられている。ギャグ漫画における「ボケ」部分が各キャラの「映画の紹介」になっている構造上、一貫しているのは、純粋な映画愛そのものだ。

 映画マニアに比べれば鑑賞本数は少ない、と謙遜する服部氏は「好き」ということと「知識が豊富」ということは違う、と指摘し「焦りながらコンテンツを消費する必要はない」と提言している。

 『邦キチ!』が魅せてくれるもの、思い出させてくれるものは「好き」に満ちあふれたコンテンツ愛だ。それを体現する存在こそ、作中「流れから自由」と評される邦キチだろう。彼女の「好き」感情はとめどない。『映画 ビリギャル』を繰り返し観て試験勉強した気になるほど、突き抜けている。『CASSHERN』愛を示した際、部長から「未見だけど低評価なのは知ってる」旨の態度をとられると「ネットの意見を鵜呑みにされるのですね」と漏らし、読者をもドキッとさせる。そんな邦キチの人柄について、部長はこう叫ぶ。

「お前の良い所は何でもかんでも好きになれる 「好き」の強さ! すべてを飲み込む「好き」のパワー!! これは多くの人類にはまだ不可能だ!」
(服部昇大『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』単行本4巻)

 邦キチは、ヒロインであり、読者を笑わせる「ボケ」担当的なキャラクターでもある。同時に、部長が言うとおり、ある種の「不可能」を体現する存在だ。つまるところ、邦吉映子とは、我々エンターテインメントファンにとってのヒーローでもあるのではないか。

参照

https://shueisha.online/entertainment/15194

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