求められるのは“現実からの開放”? ドラマやアニメで描かれる“タイムスリップ”を考察

 夏クールのドラマの中で一番の異色作は『新・信長公記~クラスメイトは戦国武将~』(読売テレビ・日本テレビ系)だろう。舞台は近未来。織田信長、武田信玄、徳川家康といった戦国武将のクローンが集められた銀杏高校で、一番強い人物を決めるため「旗印戦」という様々なゲーム対決がおこなわれる。演技のトーンはシリアスなのに、やってることはバカバカしいというツッコミ不在のボケが延々と続く物語が実に楽しい。ヒロインの日下部みやび(山田杏奈)は歴史オタクという設定で、信長や家康といった戦国武将が登場すると、その都度、解説してくれるのだが「もしも現代に戦国武将が現れて学園生活を送ったら?」というシチュエーションは、どこかワクワクする。本作の場合はクローンだが、過去の偉人が現代に現れたことで起こる騒動を描くというのは物語の定番で、アニメでは『三国志』に登場する軍師・諸葛孔明が現代に現れる『パリピ孔明』、ドラマでは平安貴族の光源氏が現代に現れる『いいね!光源氏くん』(NHK総合)が記憶に新しい。

 どちらも、現代に現れた歴史上の偉人が、スマホやSNSといった現代の文化に触れてショックを受ける一方で現代に馴染んでいく姿が描かれている。

 彼らは民俗学では稀人、文化人類学ではトリックスターと呼ばれている存在で、現代社会にはない価値観をもたらし、人々の心をかき乱すことで祝祭空間を生み出す、異界からの来訪者だ。

 逆に女子高生が戦国時代にタイムスリップするドラマ『アシガール』(NHK総合)や、男子高校生がタイムスリップして織田信長の影武者を務めるドラマ『信長協奏曲』(フジテレビ系)では、普通の現代人が戦国時代に混乱をもたらすトリックスターとなる。その際に武器となるのが、歴史の行く末を知っているという未来の知識と、文明の利器も含めた現代人ならではの価値観だ。過去にタイムスリップする物語は、「現代に帰還すること」が目的となるのだが、同時に「歴史を変えてはならない」という縛りが生まれる。その意味で歴史上の人物が現代に現れる物語とは逆で、秩序の維持こそが一番の目的となる。

 とはいえ、過去の偉人が現代に現れる物語も、現代人が過去にタイムスリップする物語も求められるものは同じで、突き詰めるとそれは「現実からの開放」である。逆に言うとこれは「現実が冒険には向かない息苦しい場所だ」ということを示しており、過去と現代を往復する物語に、その息苦しさは強く現れている。

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