求められるのは“現実からの開放”? ドラマやアニメで描かれる“タイムスリップ”を考察
たとえばアニメと映画が話題となっている漫画『東京卍リベンジャーズ』(講談社)は、フリーターの冴えない青年・武道が、昔、付き合っていた少女を救うためにヤンキーだった中学時代にタイムスリップし、現在と過去を往復する話だ。武道の目的は不良集団・東京卍會の暴走を防ぐことだが、いくら暴走のきっかけとなる事件を阻止しても、歴史はなかなか変わらない。不良グループだった東京卍會が大人になると半グレ集団となっている姿や武道がフリーターとして冴えない日常を送っている姿を見ていると、ヤンキーが過去にしか生きられない存在だということが伝わってくる。
一方、深夜アニメで盛り上がりをみせている異世界転生モノは、現実から逃げ出して異世界をチートスキルで無双する新しい人生を送りたいという現実逃避の願望が、ストレートに描かれている。
「安全な世界で冒険したい」「ハーレム状態でモテたい」という願望が丸出しの異世界転生モノは、だらしない欲望が満ち溢れている。だが同時に、いかに自分が現実で報われない人生を過ごしていたかが冒頭で描かれており、そこだけは妙なリアリティがある。中でも、ひきこもりの中年男性が異世界に転生して人生をやり直す『無職転生~異世界行ったら本気出す』は、異世界を求める主人公の弱さがダダ漏れとなっており、中年男性が内面を吐露する純文学的な味わいが生まれている。
現在放送中のアニメ『異世界おじさん』にも同じことが言える。本作は17歳の時に交通事故で昏睡状態となり、2017年に目覚めた祖父さんと甥のたかふみの日常を描いたコメディ。叔父さんは昏睡状態の時に異世界を冒険しており、今も魔法が使えるという異世界転生モノの変種なのだが、同時に叔父さんは過去と異世界からやってきた稀人で、異世界での冒険譚とSEGAのゲームを偏愛する姿が劇中で描かれる。
ジャンルを定義するならば「異世界転生した後、現代に戻ってきた系」とでも言うようなアクロバティックな作品で、ここまで書いてきた作品の全要素を内包した怪作だ。たかふみは叔父さんとルームシェアをしながら、叔父さんの異世界での体験談と魔法を売りにするユーチューバーとして生活費を稼ごうとする。無職でブサイクな叔父さんは現代的な価値観で言うと「負け組」だが、その姿はとても楽しそうだ。
現実逃避の極北と言える異世界転生モノから『異世界おじさん』のような現実回帰の物語が生まれるのだから、世の中わからないものである。
■放送情報
『新・信長公記~クラスメイトは戦国武将~』
読売テレビ・日本テレビ系にて、毎週日曜22:30~23:25放送
出演:永瀬廉(King & Prince)、山田杏奈、西畑大吾(なにわ男子)、萩原利久、犬飼貴丈、三浦翔平、満島真之介、濱田岳、小澤征悦、柄本明
原作:甲斐谷忍『新・信長公記~ノブナガくんと私~』(講談社『ヤンマガKC』刊)
脚本:金沢知樹、伊達さん
監督:中島悟、豊島圭介
チーフプロデューサー:沼田賢治
プロデューサー:中山喬詞、小島祥子、清家優輝
共同プロデューサー:三上絵里子
制作協力:ファインエンターテイメント
制作著作:読売テレビ
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