『ちむどんどん』中原丈雄、回を追うごとに増す存在感 名バイプレイヤーだからこその深み

 『ちむどんどん』(NHK総合)で今最も存在感が増してきているのは、清恵(佐津川愛美)の父・猪野寛大(中原丈雄)だ。初めて登場してから大分時間は経っているが、ここにきて新たな一面が見えてきた。

 彼は清恵と共に養豚場を経営している。面積自体はそこまで広くないが、豚を一匹ずつ丁寧に世話して育てるファミリービジネスだ。そこにならず者の賢秀(竜星涼)がやってきた。良子(川口春奈)と金吾(渡辺大知)の顔合わせで金吾の両親から受け取っていたお金を持ち逃げし、行方をくらましていた彼は気が付けばこの猪野養豚場に流れ着き、一生懸命に働いていた。幼少期から豚の世話をするのが得意だったため、ついに天職にありつけたと思うも束の間、すぐに前借りした給料を持ち逃げし、「紅茶豆腐」販売の詐欺に加担してしまう。しかし、この頃から「ビッグなビジネス」を失敗するたびに、養豚場は彼が帰ってこられる居場所になっていた。そして、養豚場を賢秀の居場所にしたのが他でもない、猪野寛大である。

 猪野寛大は名前の通り、寛大な男だ。どれだけ賢秀が失敗したり、彼らを裏切ったり、非礼を重ねても怒ることはほぼない。むしろ、彼の代わりに娘の清恵が怒っていて、そんな二人の間を取り持つような存在にもなっている。何となく清恵と賢秀の距離が近い時にその場を通りかかったり、それを目撃して気まずそうに知らんぷりしたり、何かと勘違いしながら「あとは若いお二人で……」と慌てるシャイな父親像も見せてきた。しかし、ここにきてあれだけ賢秀が性懲りもなく退職を繰り返したのに対し、復帰を認めてきた菩薩のような寛大の顔が、初めて険しくなった。清恵の元夫・涌井(田邊和也)が賢秀の名刺を手がかりに養豚場まで金をせびりにやってきたのだ。

 清恵は18歳で家出をし、20歳で涌井と結婚していた。水商売をして金を貢ぐなど、酷い目に遭っていた清恵だったが、行方の知れなかった彼女を見つけ出し、涌井に手切金を渡して別れさせたのが寛大である。そして再び現れた涌井に「表へ出ろ」と連れ出し、しばらくして帰ってきたと思ったら「今きっちり話をつけた。こんなこともあるかと思って、俺なりにあちこちに手は打っていた。だからこれで完全にあの男とは縁が切れた」と説明する寛大。涌井登場時の尋常じゃない凄みと殺気のせいで、“あちこちに手を打った”の意味が気になりすぎて仕方ない。豚が大好きで、理解もあって愛情深く、ダメダメだった賢秀のことも諦めずに父親代わりのような存在として彼の成長に一役も二役も勝っていた彼が初めて見せる側面だった。この温厚なだけじゃない、新たな一面に、中原丈雄がキャスティングされた意図が垣間見える。

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