『スパイダーマン』『トップガン』北米トップに返り咲き “全米映画デー”で興行に異変

 2022年9月3日、北米にて映画業界渾身の巨大キャンペーン「全米映画デー(National Cinema Day)」が開催された。これは1日限りで全映画・全上映形式の鑑賞料金がわずか3ドルになるという一大イベントで、AMCやRegal Cinemasなど大手映画館チェーンを含む北米3000館以上が参加。映画スタジオ各社も全面協力し、今後の話題作の映像をまとめた特別映像も上映された。

 この企画が功を奏し、わずか1日で800万人以上の観客が劇場に足を運び、1日あたりの動員数は2022年最高記録となった。

 北米において、9月第1週目の月曜日(今年は9月5日)は、“労働者の日”である祝日「レイバー・デー」にあたる。一般的には3連休だが、映画業界的にレイバー・デーの週末は1年で最も客足が遠のく傾向にあり、今年はスタジオ各社が新作の公開をほとんど控えた。「全米映画デー」の開催は8月28日に全米劇場保有者教会が発表したものだが、これは夏の終わりに映画興行が冷え込んでいること、レイバー・デーに新作の公開がないことへの対策であり、同時にコロナ禍からの回復を後押しするものだったのだ。

 そんな中、9月2~4日の北米週末興行ランキングは『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021年)の再上映がNo.1を獲得。11分間の新規映像を追加した『THE MORE FUN STUFF VERSION』としてのカムバックで、3日間で600万ドルを稼ぎ出し、9月2~5日の4日間では760万ドルを記録する見込みだ(日本公開は9月9日)。

 さらに「全米映画デー」の影響を受け、週末のランキングには異変が発生。前週からの入れ替わりが激しい結果となったが、第2位で『スパイダーマン』を猛追するのは、なんと公開15週目にして返り咲いた『トップガン マーヴェリック』なのだ。週末興行収入は3日間で550万ドル、4日間では約700万ドルとなり、この週末に北米興収7億ドルを突破することは確実。『ブラックパンサー』(2018年)を抜いて、北米歴代興収ランキングの第5位をあっさり手中に収めることさえありうる状況だ。

 また『トップガン マーヴェリック』の世界累計興収は14億4073万ドルで、イギリスでは1億ドルの大台を突破。日本がそれに比肩する9040万ドルという高水準で、その後に韓国の6630万ドル、オーストラリアの6350万ドル、フランスの5670万ドルが続く。

 第3位『DC がんばれ!スーパーペット』も前週の第6位から急上昇し、3日間で545万ドルを記録。4日間の興収は600万ドルに迫る勢いだ。「全米映画デー」当日の興収成績は前日比+251.7%という跳ね上がりよう。第8位『ミニオンズ フィーバー』が前日比+259.2%、第9位『ソー:ラブ&サンダー』が前日比+189.9%という結果からは、このイベントがファミリー映画を大いに支援した(=家族連れへの効果が大きかった)ことがよくわかる。

 第4位『ブレット・トレイン』は前週の第2位からランクダウンするも、3日間で540万ドルを稼ぎ出し、前週比−3.7%という粘り強さを発揮し、公開5週目で8500万ドルを突破。4日間では680万ドルを記録する見込みだ。9月1日に待望の日本公開を迎えたこともあり、世界興収記録は2億ドル超え間近となった。

 なお「全米映画デー」とレイバー・デーの3連休が重なったため、今週末の映画興行は極めてイレギュラーなものとなっている。特にランキングの上位は週末興収が激しく競り合っているため、本稿では速報値をご紹介しているものの、確定値で順位に変動が起きる可能性もあるだろう。『トップガン マーヴェリック』が『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』を抜いて首位を飾っていることも十分に考えられるのだ。

 一方で由々しき事態と言えるのは、「全米映画デー」という動員促進キャンペーンの結果、ランキングのトップを占めたのが『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』という“旧作”、また『トップガン マーヴェリック』という初夏の作品であること。すでに自宅で観られる両作の需要が再確認された一方、『ブレット・トレイン』を除く夏公開の実写映画は撤退に入った感さえある。このイベント自体、こうした状況を鑑みて実施されたものだが、10月の『ブラックアダム』まで大作が封切られない今、今後の興行面が非常に心配される。

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