『石子と羽男』の核となる“些細なこと”の大切さ 赤楚衛二演じる大庭に不穏な予感も

「人生、些細なことで変わると思うんです」

 この石子(有村架純)のセリフと、ドラマのサブタイトルがつながってくる。まさに『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』(TBS系)というドラマの核だと思った。

 人生は“そんなコト”と言われるような些細な出来事で分岐していくもの。そこで環境が変われば、出会う人も変わる。そして自分自身の考え方さえも変わってくる。

 しかし、だからこそ「こんなことで?」と思うような小さな何かが、いい方向に転がるきっかけにもなりうるのではないか。些細なことだと目を瞑らず、声を上げるべし。そして、良いつながりを引き寄せるべし、と。

司法試験とつながってしまった心の傷

 石子と羽男(中村倫也)が出会ったのもきっかけは些細なことだった。しかし、いまやお互いがいないのは考えられないほどに息の合った最高の相棒だ。石子は羽男の狡猾な企みを瞬時に理解し、「はいはい、色々できますねぇ」なんて不敵な笑みを浮かべてみせる。羽男もさりげなく石子を気にかけ、優しさが見えるようになってきた。あの日、父の綿郎(さだまさし)が羽男を誘わなかったら、その前に羽男が前の事務所をやめていなかったら、いやいやその前に石子が司法試験に受かっていたなら……この生活はなかったのだ。

 その石子が、司法試験に4回も不合格になってしまう理由。それが羽男にも私たち視聴者にも大きな謎として残っていた。東大法学部を主席で卒業するほどの石子ならすぐに合格できそうなものなのに。そのワケがついに石子の口から語られたのだ。3年前、初めて司法試験を受ける当日に、石子は交通事故を目撃。被害者でも加害者でもない目撃者は、いわば事故とは直接関係のない存在だ。それでも心に受けた傷は癒えず、石子は試験のたびにそのフラッシュバックに苦しめられているのだという。

 誰が悪いわけでもなくても、人生が大きく変わってしまう。そんなきっかけが日常には溢れている。それでも人は、少しでもいい人生を歩もうと歯を食いしばって踏み出す。そのとき、味方になってくれる人がいてくれたら、どんなに心強いだろうか。その味方が、ときには街の弁護士になることだってあるのだ。

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