昭和の匂いをまとって平成に作られ、令和に伝えられる 『私立探偵 濱マイク』なぜ伝説に?

 各話ゲストは列挙するだけで紙数が尽きてしまう。代表的なメインゲストが、有機農法のコミューンにいる菅野美穂、精神病院の入院患者・香川照之、消えた歌姫・UA、女を利用するろくでなしの武田真治、スキンヘッドの偽濱マイク・窪塚洋介、不穏な自己啓発セミナーの“先生”・鈴木京香、重い病を抱えたカルトのリーダー・EITA(現・永山瑛太)、ドMの元教師・勝村政信、神に運命を委ねる殺し屋・浅野忠信、カラスを愛する元殺し屋・田口トモロヲ、濱マイクの兄弟のような粗暴な男・SIONという豪華さだ。ほかにも、樋口可南子、伊武雅刀、財津一郎、岸田今日子、石橋蓮司、岸部一徳、原田芳雄、片桐はいり、小林薫、國村隼、松方弘樹、柄本明、塚本晋也、尾藤イサオ、塩見三省らベテラン、重鎮、個性派らが脇を固めている。実在の娼婦「ハマのメリーさん」をモデルにした「ハマのサリー」役の岸田今日子はわずかしか出演していないのにすさまじい存在感を放っていた。デビューしたばかりの桐谷健太、眞島秀和、改名前の菊地凛子(本名の菊池百合子で出演)も顔を見せている。

 第2話で堂々とメインゲストを務めたUAをはじめ、ミュージシャン、芸人、クリエイターの出演も多い。憂歌団の木村充揮は謎めいた焼きそば屋の店主、編集者の秋山道男は狂気の音楽プロデューサー、MAXの宮内玲奈はキャバクラ嬢を演じている。『シン・ウルトラマン』の樋口真嗣監督が自己啓発セミナーの受講生でその後通り魔になる男として登場したのは驚いた。俳優業の初期だったピエール瀧も1シーンのみ出演。第5話は、南部虎弾、鳥肌実、hitomi、浜村淳が次々と登場して目が離せない。中島哲也が演出した第9話は全体的にギラギラしており、伝説の殺し屋・松方弘樹と芸能人の顔を持つ殺し屋コンビ・林家ぺー・パー子が壮絶な撃ち合いをして、キャットガール姿の高級SM嬢・光浦靖子が標的の勝村政信を助けるという言葉で説明すると訳がわからないシーンがあった(光浦靖子はマスクを取ると杉本彩になる)。

 もともと昭和の名作ドラマ『傷だらけの天使』(1974年)や『探偵物語』(1979年)などを愛する永瀬正敏が、それらの作品を次世代に伝えたいと考えたスタッフたちと集まって作り上げたのが『私立探偵 濱マイク』だった。撮影は昭和のドラマと同じく16ミリフィルムで敢行。1エピソードごとの撮影に2週間が費やされた。

 演出のスタイルだけでなく物語もバラバラだったが、共通しているのは、時代や社会に取り残されていく弱者やはみ出し者たちへのあたたかい眼差しだった。その中心には義理人情に厚く、仲間を家族のように大切にする濱マイクの姿がある。2000年代に入っても昭和の風景を色濃く残していた横浜の街自体も、作品の重要な登場人物だった。

 スタッフ、キャストともに破格の体制で作り上げられた『私立探偵濱マイク』とは、連続ドラマの形を借りつつ、映画、アート、音楽、お笑い、ファッションなどの雑多な要素を詰め込んだ一大プロジェクトだったと言える。予算もかかっているが、何よりプロデューサー的な役割を果たしていた永瀬正敏と各監督、彼らのオファーに答えたスタッフ、キャストとの有機的なつながりが独特の熱を放っていた。本作を通じて永瀬正敏は「種をまく作業がしたい」という思いを持っていたという。昭和の匂いをまとって平成に作られ、令和に伝えられる『私立探偵 濱マイク』。これを観て、何かを感じる新しい世代は間違いなくいるはずだ。

■配信情報
『私立探偵 濱マイク』
Huluほかにて配信中
出演:永瀬正敏、中島美嘉、中村達也、市川実和子、阿部サダヲ、井川遥、酒井若菜、川村亜紀、村上淳、松岡俊介、山本政志、松田美由紀、小泉今日子
脚本:行定勲、青山真治、中島哲也 他
監督:行定勲、青山真治、中島哲也 他
チーフプロデューサー:堀口良則
プロデューサー:仙頭武則、古賀俊輔、岡野彰
制作協力:サンダーボルト
制作会社:PUG POINT・JAPAN
©「私立探偵 濱マイク」プロジェクト

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