『ちむどんどん』独立にフリーランス “自由”を求める暢子と和彦の無計画さへの不安

『ちむどんどん』和彦の無計画さへの不安

 房子(原田美枝子)が暢子に伝えた条件を一人で遂行し続ける力が試され、ルールがないからこそ自己にルールを課せていかないと大変なのだ。そして、和彦はずっと、彼のライフワークという沖縄のネタを出版社に持ち寄って回っている。ただ、第97話の放送でも言われていたように、出版社は別のネタを求めているのだ。

 何を書いたら売れるのか、自分は何を書けるのか。駆け出しだからこそ相手のニーズを把握した上で自分を売り込まなければいけない。逆に、沖縄のことについて書きたいのであれば沖縄のトピックに興味のある雑誌などを発行する出版社に行く必要がある。ただ、沖縄の研究についてだけ書いていくならば、それを書き続けることへの覚悟も必要で……とにかく、どの仕事も大変だしフリーランスのライターは今の和彦が選択するべき働き方ではないのだ。収入だってすぐに入ってこないし、最初は原稿料も少ない中でどのように暢子と赤ちゃんを養っていこうと思うのだろう。

 披露宴の時には独立する意志をはっきり伝えていて、それを応援していたはずの和彦。しかし、本当に応援するのであれば6年間付き合った愛の時のように、しっかり将来を考えた計画的な付き合い方をする必要があったのではないだろうか。こういった部分にも、和彦の“地に足のついていなさ”が滲み出ている。おぼっちゃまで甘やかされたり、実家が太いからいざとなったらどうにかなる精神だとしても、母親の重子は最もな意見でちゃんと自分の息子を叱るし、大手新聞社で何年も働いていたのならそれなりの社会常識やライターという生き方の難しさが理解できているはず。あんなに良識人のイメージがあった和彦に何があったのだろう。いや、むしろ彼は最初からこうだったのか。

 この和彦というキャラクターの持つ曖昧さが宙ぶらりんになったまま、「その程度の考えでも何だかんだ人生はうまくいく」「ライターとしても大成功!」という展開にならないことを期待したい。特に、「フリーランス」という言葉の甘い響きに誘われる人が今数多くいるからこそ、生活費を稼ぐことの難しさや現実を見せないと、「簡単なんだ」と迷い込んで落とし穴に落ちてしまう人だっているはずだから。そういった現実への影響についての一抹の不安も拭いきれないのである。逆に、少しの挫折を味わったうえで「今が挑戦の時じゃない」と重子の言う通り銀行に勤める選択をとる展開があるのであれば、私は彼の英断を思い切り称賛したい。

■放送情報
連続テレビ小説『ちむどんどん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
主演:黒島結菜
作:羽原大介
語り:ジョン・カビラ
沖縄ことば指導:藤木勇人
フードコーディネート:吉岡秀治、吉岡知子
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:松田恭典
展開プロデューサー:川口俊介
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
写真提供=NHK

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