蓮佛美沙子、初共演の松田龍平の“謎”は解けず? 『鵜頭川村事件』で追求した不穏さ
一度魂を入れてしまったら、現場では全て忘れる
――さて、今回、蓮佛さんは1人2役です。その難しさは感じませんでしたか?
蓮佛:過去にも双子の役は演じたことがあるのですが、双子だから演じ分けようとは一切思いませんでした。どの役でも、撮影前にとにかくその人を掘り下げていく作業をするのですが、2役の場合は、単純にその作業が掛ける2になるイメージです。今回、比重の多かった有美は足にハンデがある女性で、そのことも相まって幼い頃から姉と比較されやすくそれが当たり前の中で育ってきた。私としては有美はモノクロの世界で生きて来きて、見るもの全てが灰色で、希望もなければ絶望もないところで生きて来きのかなと。仁美は、本来はすごく明るい普通の女性だったと思うのですが、あることがきっかけで壊れてしまう。12年前に人生が180度変わってしまったのが仁美です。それぞれひとりひとりを掘り下げていって、それが結果的に違いとして見えたらいいのかなと思いながら演じていました。
――とはいえ、有美と仁美を混同してしまうことはないのでしょうか。
蓮佛:私はどの役に対しても、とことん掘り下げてから現場に入るタイプなんです。そして現場で全部忘れる。説明が難しいですけど、一回魂を入れているから大丈夫というか、召喚する感じで、有美も仁美も混同せずにいられました。
――現場で忘れるというのは、現場での演出やお芝居に柔軟であるためにでしょうか。
蓮佛:ガチガチで行ってしまうと、新しいものが生み出されるのを阻害してしまうんじゃないかな、と。それはもったいないので、一度入れてしまったら、入江監督の演出や、龍平さんがこういう芝居で来るんだといったことに、その役の素のような状態で柔軟に対応できるように、忘れます。
――「現場に入る前に、役柄を徹底的に掘り下げて、現場では忘れる、捨てる」というお話は、他の俳優さんからも何度かお話を伺ったことがあります。どれだけ掘り下げて、どれだけ捨てられるかだと。
蓮佛:えー、そうなんですか! でも、かつては現場を離れても、役と自分を同化させていたこともありましたね。
――初期の作品である『七瀬ふたたび』(2008年)の頃には、「役と自分の切り離しがうまくいかなかった」と発言されています。
蓮佛:そうですね。当時はまだ高校生で、経験値が全くなかったので、役と自分を混同させることで安心していた部分があったのだと思います。それで役と同化して日常生活で泣いてしまったり。でも10年以上やってきて、同化させるやり方は、私の場合は集中力が切れることに気付きました。涙を流さなきゃいけないシーンで、本番までに感情が出過ぎて、本番でカラッカラになってしまうとか。これは私に合ってないんだなと。ずっと考えているのではなく、むしろすごくヘビーなシーンであっても、直前までヘラヘラ笑ったりしていたほうが、私は集中しやすいんだなと行きつきました。
――それも事前の掘り下げがあるから。
蓮佛:そうですね。今回でいうと、仁美と有美のことを一番理解して、一番寄り添えるのは自分だという自負を強く持てるようなところまで寄り添って掘り下げられたら、あとはもう捨てて、現場で生み出されるものを信じようと。もちろん作品によりますが、基本的には、経験とともに構築されていったものかなと思います。
今も残る大林宣彦監督の言葉を胸に
――一方でキャリアの序盤から、変わらずに心がけていることはありますか?
蓮佛:デビューして間もない頃に大林宣彦監督の『転校生』という作品をやらせていただきました。それこそ“同化”云々も右も左も分かりませんでしたが、監督に「お芝居には正解も間違いもないから、とにかく好きなようにやりなさい。自分を信じてやってみなさい」と言われて。それが私にとって大きな救いになりました。当時16歳くらいで、周りにたくさん大人がいて、NGと言われても何が違うのか分からなくて、そうこうしていくうちに、OKをもらうためだけにお芝居するようになっていたんです。そんなとき、大林監督に「とにかくやってみなさい。全部合ってるんだから」とおっしゃっていただいたことが、いまだに私のベースになっています。だからこそ今、掘り下げて掘り下げて、役を自分のなかで落とし込めたと思ったら、あとはもう捨てて大丈夫だと思えるのかな、と。ずっと根っこにある、大切にしている言葉です。
――現在、31歳。年齢を重ねていくことにどんな楽しみを感じていますか?
蓮佛:年齢を重ねれば重ねるほど、生きることが楽になってきています。実は20代前半は、しんどいなと思うことが多くありました。完璧主義で、心配性だったんです。でもこの10年ほどで、好きなものと嫌いなものがはっきりしてきたこともあって、どんどん楽になってきました。仕事でもプライベートでも、自分自身の好みや、許せるもの許せないものといったことが分かったうえで、風通しよく、心地いいものをどんどん見つけて耕していけたらと思っています。なので楽しみしかないです。
――ありがとうございます。最後に、本作での蓮佛さん的オススメポイントを教えてください。
蓮佛:最終回です。私個人の勝手な目標として、この物語を、有美の救いの話にしたいとも思っていました。初回を観ていただくと、有美はあまり人と関わることが得意じゃない、内に内に入って行くタイプのキャラクターに見えると思います。最終回、有美も感情が爆発するシーンがあるのですが、そこをぜひ見ていただきたいです。
■放送情報
『連続ドラマW 鵜頭川村事件』(全6話)
WOWOWプライム・WOWOW4Kにて、8月28日(日)22:00放送・配信スタート
※第1話無料放送
WOWOWオンデマンドにて、各月の初回放送終了後、同月放送分を一挙配信
※無料トライアル実施中
出演:松田龍平、蓮佛美沙子、工藤阿須加、山田杏奈、板橋駿谷、冨手麻妙、吉岡睦雄、和田光沙、宇佐卓真、眞島秀和、綾田俊樹、荒川良々、伊武雅刀ほか
原作:櫛木理宇(『鵜頭川村事件』文春文庫刊)
脚本:和田清人
監督:入江悠
音楽:池永正二(あらかじめ決められた恋人たちへ)
©︎WOWOW
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/uzukawamura/