『ちむどんどん』の根幹にある“相互扶助”への願い 賢秀は朝ドラ史上最も騙されたキャラに

『ちむどんどん』を貫く“相互扶助”の精神

 “朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』、第19週「愛と旅立ちのモーウイ」は急展開。暢子(黒島結菜)と和彦(宮沢氷魚)が結婚、暢子の独立、和彦の退職、そして暢子のからだの異変……。何かが起こるときは数珠つなぎということはよくあるとはいえ、怒涛の展開である。しかもそれらの出来事に、賢秀(竜星涼)のねずみ講問題が挟まっているのである。あの我那覇(田久保宗稔)にこれまで何度もお金を持ち逃げされているにもかかわらず、またしても口車に乗せられねずみ講に手を出してしまう賢秀。房子(原田美枝子)に諭されて抜けようとしたが違約金が200万円かかる。それを暢子が開店資金を使って助けるという流れはなんともいたたまれない。

 だが、暢子の開店資金を、良子(川口春奈)が家族の海外旅行のために貯めたお金で肩代わりする。それも言い出しっぺは博夫(山田裕貴)である。返さなくていいという良子。なんて麗しい家族愛。その家族愛に、暢子と家族になったばかりの和彦も参加する。ねずみ講問題に関わってしまったため、新聞社を辞めることになるのだ。

 「暢子も賢秀も僕の大切な家族、後悔はしてない」と言う和彦のまっすぐな瞳。言動がソフトだし、結婚もなんとなく流されていたようにも見える(だってほかに長年つきあっていた人がいたから)和彦だが、暢子との結婚にこれまで強い覚悟をもっていたのかと驚いた。

 比嘉家周辺のこの強い絆はいったいどのように芽生え育まれ鍛えられていったものなのか。第19週はどんなことがあっても家族は家族を見離さないということが強調された。誰もが等しく生きてるだけでいいのだという願いを感じる。

 第94話の回想シーンで、子供時代、賢秀が共同売店のレジからお金を盗んでしまったとき、父・賢三(大森南朋)は賢秀が悪くない、悪いのは自分だとかばう。「関係ない」と賢秀が言うと「関係ないなんて言うな!」と叱るのだ。これと同じようなことが現代でも起こる。第95話、和彦が新聞社を辞めることになったとき、かばおうとする上司・田良島(山中崇)も「関係ないなんて言うな」と激しい口調で言うのだ。田良島の場合、家族ではないのだから最も尊い隣人愛である。沖縄県人会もそういう家族的な集まりだ。その理念は時々、語られる「ゆいまーる」――助け合い、相互扶助である。我那覇のような者たちが何度失敗しても肩寄せ合いながら一攫千金を目指すのも、根っこに、家族的な思いがあるからだろう。

 我那覇をゆるす賢秀の人のよさは、賢三に由来するものだろう。ゆるしあい助けあう人たちがそばにいてくれたら、どんなにいいだろうと思うが、自分は身を挺して誰かを守れるか、どんなことがあっても離れずにいることができるかと考えると、イエスとは容易には言えない。

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