Netflix版『バイオハザード』に感じる虚無 過去映像作と比べて何が問題だったのか?

散りばめられた“『バイオハザード』要素”の浅さ

Netflix『バイオハザード』COURTESY OF NETFLIX

 ここまで“『バイオハザード』的なもの”を無視したキャラクターや世界観が設定されているにもかかわらず、本作は『バイオハザード』の名を冠している。確かに、巨大なイモムシや蜘蛛、リッカーなど原作でもお馴染みのB.O.W.は登場するし、「ラクーンシティ」や「T-ウィルス」など、いくつかの部分で『バイオハザード』的な要素は描かれている。しかし、実写版『バイオハザード』という作品であれば、本来それがメインで描かれるべきではないだろうか。これも、先ほどの「woke」に似ていて、“とりあえずバイオっぽいもの出しておけばファンは喜ぶ”という浅はかさに受け取れてしまう。

 実際、もしクリエイター陣がゲームをプレイして、原作のファンなのであれば、本作を“正史扱い”することがどれだけ挑戦的だったか、理解できたはず。製作総指揮のアンドリュー・ダッブは5月14日掲載のウェブ版Entertainment Weeklyのインタビューで、「ゲームはドラマのバックストーリーです。ゲームの中で起こることはすべてこの世界にも存在しています。最新作の『バイオハザード ヴィレッジ』もその中に含まれています」と語っている。(※1)確かに作品内ではラクーンシティがT-ウイルス拡散により壊滅したり、『バイオハザード5』での出来事(ウェスカーの死)が過去に起きていたり、今までのゲームの出来事があった上で2022年以降の物語が作られたのがわかる。しかし、ゲームとの大きな違いに「アンブレラ社が倒産していない」ことが挙げられる。これによって数々の問題が発生してしまうのではないだろうか。加えて、タイラントを作っていることが示唆されるシーンも登場するが、正史ならこの時点ですでにタイラントなんていくつも作られているのだから、どう繋げるつもりなのかわからない。

Netflix『バイオハザード』COURTESY OF NETFLIX

 それに、クリス&クレア・レッドフィールドやレオン・ケネディ、ジル・バレンタインなどシリーズにおけるいくつもの重要キャラクターはどこにいるのか。何より、本作の2022年(過去パート)に登場する「ニュー・ラクーンシティ」は南アフリカに建設されているわけだが、アフリカといえば『バイオハザード5』に登場したシェバ・アローマというキャラクターがいるではないか。しかも、彼女はクリスの相棒として2009年にアルバート・ウェスカーを倒した張本人である。めちゃくちゃ本シリーズのプロットに関わっていて、原作ゲームでもその後が描かれていない自由度があるキャラクターであるにもかかわらず、彼女は本シリーズに登場しなかった。そこまで原作キャラを無視してまで描きたかったキャラクターが、前述の通り非魅力的であることが残念である。

 制作者のダッブはすでに続編の構成を練っていて(ドラマの終わり方もシーズン2を示唆していた)、Polygonのインタビューで、「『バイオハザード ヴィレッジ』に登場したドミトレスク夫人も登場させたい」と語っている。同インタビューで「ゲームシリーズからできるだけ多くの象徴的なキャラクターを、初代から最新作までの敵を含めて作品に登場させたい」「時間をかけて慎重に、責任を持ってやっていきたい」と述べているが、もし本気でそう思うなら大幅な変更が求められるだろう。(※2)最初からなぜ象徴的なキャラクターを描かなかったのか、という疑問を持つことはやめることにするが、多くの視聴者が指摘する問題に気づき、改善しない限り、そういったキャラを登場させてもまたファンの気を引きたいための無意味なリファレンスにしかならない。『バイオハザード』シーズン1は、『バイオハザード』の“ライヴ・アダプテーション(実写化)”作品と主張するものの、実際のところ看板だけを借りた、全く別の空虚な作品でしかなかったのだから。

参照

※1. https://ew.com/tv/resident-evil-video-games-backstory-netflix-series/
※2. https://www.polygon.com/23220251/resident-evil-season-1-ending-netflix

■配信情報
Netflixシリーズ『バイオハザード』
Netflixにて独占配信中
ショーランナー・製作総指揮・脚本:アンドリュー・ダブ
監督・製作総指揮:ブロンウェン・ヒューズ
出演:ランス・レディック、エラ・バリンスカ、タマラ・スマート、アデライン・ルドルフ、シエナ・アグドン、パオラ・ヌニェス
COURTESY OF NETFLIX

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