『アイドル』古川琴音ら“本物”の圧巻パフォーマンス 待子の思いは現代のアイドルにも続く

『アイドル』本物の圧巻パフォーマンス

 ここまで昔と今とでアイドルの在り方はさほど変わらないと記してきたが、一つだけ大きく違う点がある。それがアイドルという存在が戦争に利用されていたということだ。ブロマイド1枚でさえ兵士の戦意を維持するため、戦地に慰問品として送られていたこの時代。宝塚だけでなく、ムーランも厳しい検閲下にあった。朝ドラ『おちょやん』や『エール』においても、娯楽は不要不急と言われた同時代が描かれており、葛藤しながらも兵士を激励できるのであればと戦地へと慰問に向かう待子の姿は、『エール』で古川が演じた華の父・裕一(窪田正孝)を彷彿とさせる。アイドルとしての存在が生きるための力ではなく、死にに行くための支えであることを知り絶望するところまでが、残酷にもかつての裕一と一緒だ。

 しかし、待子もまた裕一と同じく絶望の淵から這い上がる。暗闇に迷う待子に光を当てたのはファンレター。アイドルが軍に使われたことは紛れもない事実であるが、須貝富安(正門良規(Aぇ! group))をはじめとする多くのファンが待子というアイドルが心の支えにあったこと、そして待子が一人ひとりの手を握り「武運長久をお祈り致します」とファンを思っていたこともまた事実である。佐々木が待子を励ます際にかける「娯楽が、ムーランが、アイドールの笑顔が必要なんだよ」という言葉は、コロナ禍の現代にも響くメッセージだ。

 物語のラスト、終戦後の新宿で待子はスターを夢見る少女に声をかける。待子のじっと未来を見据えるような眼差し。待子の思いは現代に続く次のアイドルに受け継がれていることを想像させるとともに、アイドルが多くの人を勇気づけているのは今も同じだ。

■放送情報
特集ドラマ『アイドル』
NHK BSプレミアム(BS4K同時)にて、8月29日(月)21:00〜22:29放送
出演:古川琴音、山崎育三郎、愛希れいか、正門良規(Aぇ! Group/関西ジャニーズJr.)、田村芽実、椎名桔平ほか
作:八津弘幸
音楽:宮川彬良
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:渡辺哲也、石村将太
演出:鈴木航
ステージ演出:池田泰洋
写真提供=NHK

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