『ブライアン・ウィルソン』ビーチ・ボーイズの名曲の魔法を紐解く “天才”の過去と現在
実際の撮影では無口な場面も非常に多く、最初から大変な映画だったとブレント監督は言う。
「毎日サプライズだらけでした。ブライアン・ウィルソンといるということ自体が冒険なわけです。彼は5分もすれば気が変わったりします。そうすると計画していたことが全てなくなってしまうわけですね。毎日計画を立てて撮影を始めるのですが、ブライアンの家まで迎えに行くと、彼は『それはやめてこっちに行こうよ』みたいなことを言うわけです。連日の撮影がそんな感じでした」
制作には約3年かかり、その間にはブライアンが2度の手術を受けるというアクシデントもあった。それでも、名プロデューサー、ドン・ウォズまでもが「どうやってこの音を作ったんだ」と首を傾げるほどの名曲の数々の秘密を探りたいとの思いが後押しした。
数多くの音楽関係者がブライアンを“天才”と評す一方、現在の彼は、街角のお気に入りのダイナーでクリームを美味しそうに舐めたり、ドライヴ中にも次々と曲をリクエストしてかけさせたりと、とても無邪気だ。
そんなブライアンが心から悲しむのは、ビーチ・ボーイズのメンバーでもあった弟たちの話をするとき。1983年に海で亡くなった弟で、グループで一番の人気者だったドラマーのデニス。そして、1998年に肺ガンで亡くなったのがギタリストのカールで、カールの家まで行ったものの車からは降りずに、静かに涙を拭く。
ただ、音楽制作、ライヴへの意欲は失われることなく、LAハリウッド・ボウル、ナッシュビルのライマン公会堂、ロンドンのオデオンで行われたライヴの模様が収められているほか、レコーディング・スタジオでは、厳しくチェックを続ける姿が確認できる。
ブレント監督がビーチ・ボーイズに出会ったのは9歳の頃で、父親のレコード・コレクションにあったファースト・アルバムを聴いたことがきっかけだったという。「どんどん深掘りしていくと、若い世代のビーチ・ボーイズファンがつながっていく気持ちがすごくわかりました。その一つが『イン・マイ・ルーム』です。『イン・マイ・ルーム』を聞いた僕は、まるでそれが自分のために書かれたように感じました。子供の頃は、自分の部屋が自分の世界なわけですから。誰も理解してくれないのに、なぜかブライアン・ウィルソンは理解してくれているのです。その時初めて、ビーチ・ボーイズの音楽に車と女の子以外に語られていることがあると気づかされました」と語っている。
ビーチ・ボーイズの名曲たちにはそんな魔法が今も生きている。その魅力の秘密の一端に触れる映画は、ファンにとってかけがいのない一作となるに違いない。
■公開情報
『ブライアン・ウィルソン/約束の旅路』
8月12日(金)より、全国ロードショー
出演:ブライアン・ウィルソン、ジェイソン・ファイン、ブルース・スプリングスティーン、エルトン・ジョン、ニック・ジョナス、リンダ・ペリー、ドン・ウォズ、ジェイコブ・ディラン、テイラー・ホーキンス、グスターボ・ドゥダメル、アル・ジャーディン、ジム・ジェームス、ボブ・ゴーディオ
監督:ブレント・ウィルソン
製作:ティム・ヘディントン、テリサ・スティール・ペイジ、ブレント・ウィルソン
製作総指揮:ブライアン・ウィルソン、メリンダ・ウィルソン、ジェイソン・ファイン
共同プロデューサー:ジャン・ジーフェルス
配給:パルコ ユニバーサル映画
2021年/アメリカ/英語/93分
(c)2021TEXAS PET SOUNDS PRODUCTIONS, LLC
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/brian-wilson