『ブライアン・ウィルソン』ビーチ・ボーイズの名曲の魔法を紐解く “天才”の過去と現在

 「サーフィン・U.S.A.」「サーファー・ガール」「イン・マイ・ルーム」「アイ・ゲット・アラウンド」「ヘルプ・ミー・ロンダ」「グッド・ヴァイブレーション」「神のみぞ知る」「英雄と悪漢」等々、ポップス・ファンであれば一度は耳にしてきたビーチ・ボーイズの名曲たち。

 これらの曲を書き、印象的なコーラス・ハーモニーを作り上げてきたのがブライアン・ウィルソンだ。大瀧詠一、山下達郎をはじめ、日本でも敬愛するアーティストは数多い。

 レコーディングの高い完成度を求め、バンドとしてのツアーは早くから抜けたものの、センシティヴな感受性からドラッグに溺れたり、幻聴、精神疾患に苦しみ、80年代には精神科医から洗脳的な治療を受けリタイア状態になったりと、これまで波乱万丈な運命を辿ってきた。

 そんな彼の人生に向き合ったドキュメンタリー映画『ブライアン・ウィルソン/約束の旅路』が8月12日から全国公開となる。

 ドキュメンタリー作品を数多く撮ってきたブレント・ウィルソン監督による本作は、ブライアンが長年懇意にしてきた音楽ジャーナリストが運転して、LA周辺を中心にブライアンが育った家やビーチ・ボーイズゆかりの地を訪ね、話を聞いていくもの。

 ロック史上ベスト・アルバムに挙げられることも多い『ペット・サウンズ』をはじめ、オランダに半年以上移住して作った『オランダ』、リアルタイムではついに完成させることの出来なかった<ロック界で最も有名な未発表アルバム>『スマイル』などの話題を随所に織り込みながら、歴史を追っていく。

 その間にエルトン・ジョンを始め新旧の大物アーティストたちが曲の魅力や、アイデアの素晴らしさ、功績について熱いメッセージを寄せる。なかでも、ブルース・スプリングスティーンは「彼の昔の曲を聞くと喜びと寂しさを感じる。失った若さと純枠さを思い出すから」と思い入れたっぷりに語っている。

 また、フー・ファイターズのテイラー・ホーキンスは、この撮影後の2022年3月25日に急逝しており、彼のファンにとっても特別な映像となった。

 ブライアンは、まず20歳そこそこでビーチ・ボーイズとしてサーフ・ミュージックの大ブームを生み、巨大な成功を収めた。そしてその頃、ビートルズの『ラバー・ソウル』に刺激を受けてスタジオにこもるようになり、音楽的な野心を広げ、素晴らしい作品を作り上げていった。映画はそんな彼の思い出の場所を巡っていく。デビュー・アルバム・ジャケットの撮影場所、幼い頃に育った場所、最初の結婚で住んだ家などを訪ねたブライアンの反応は、決して多弁ではないものの、それだけに一つ一つの言葉が愛おしい。

関連記事