『バットガール』はなぜお蔵入りになったのか? 複雑に絡むDC事情を解説

 ここで『バットガール』の話です。これはまずビジネス的な話をすると、HBO Maxという配信サービスがあります。DCの親会社であるワーナー系なのでDC映画とHBO Maxは連携しやすい。DCはこの両社の関係を、MCUにおける劇場公開作とディズニープラスのドラマみたいに考えていた。その先駆けが映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』の劇場公開、スピンオフドラマ『ピースメイカー』のHBO Max配信という流れでした。そしてHBO Maxは“まだ劇場公開にするほどではないがポテンシャルあるDCキャラの登竜門”装置としても機能するハズで、その第1弾が『バットガール』。そして第2弾が『ブルービートル』(甲虫を模したアーマーを着た若者ヒーロー)でした。

『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(c)2021 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (c)DC Comics

 ところが、ここで親会社の方針がかわり、“DCものはすべて劇場公開にすべし”となった。もともと配信用映画で考えられていた『バットガール』は急遽、劇場公開作になった。しかし、どうもその出来栄えがよくなかった(試写で不評だった)ので今回はお蔵入りになった、ということらしいのです。僕はこの「出来栄えがよくなかった」の意味が本当にダメなのか、劇場用映画として物足りないということなのかどっちかわかりませんが、そもそも配信用映画だったものがいきなり劇場公開になったことの無理がたたったのではないか?

 以前、マーベルのドラマ『インヒューマンズ』が1話2話をIMAXで限定上映して、その後TVで放送というお披露目をしたことがあります。内容以前に、そもそもTVドラマ用に作られたものはやはり劇場で観るには向いていないなと思いました(体験としては楽しかったんですが)。劇場公開が無理なら配信でやればいいのでは? と思いますが、配信にまた切り替えるコストを考えてやめたらしい。確かに劇場公開として失格みたいなケチがついたら配信しても期待できないということでしょうか? DCの親会社ワーナーは経営陣が変わり(現在はワーナー・ブラザース・ディスカバリーという会社になっています)、新経営層はコストにはかなり厳しいらしいのです。

 また、ワーナーは2011年にエイドリアンヌ・パリッキ出演で実写ドラマ版『ワンダーウーマン』のパイロット版を作りながらもお蔵入りしたことがあります。ダメなものはダメと切り捨てるジャッジをするところでもあるのです。

 この『バットガール』でガッカリなのは『アクアマン・アンド・ザ・ロスト・キングダム』に引き続き、キートン版バットマンの姿が見れなくなること。また、DCとしてこういう前例があることにより、『ブルービートル』やエズラ・ミラーの素行上の問題でちょっと予断を許さない『ザ・フラッシュ』に対しても、“思い切った”判断をする可能性もあるのではないか? とファンは心配になる。というわけで、『バットガール』の一件はこれからのDC映画戦略に暗雲をもたらすものでありました。

 その一方、そうした不安をかき消すかのように、このタイミングで、ホアキン・フェニックス主演の『ジョーカー』続編『Joker: Folie a Deux(原題)』が、2024年10月4日に全米公開されることが決定。なんとレディー・ガガがハーレイ・クイン役。さらにワーナー・ブラザース・ディスカバリーのCEOデヴィッド・ザスラフが、将来のDC映画はMCUみたいに10年スパンの長期計画で考える、と発言しました(なおこの『ジョーカー』や最近公開された『THE BATMAN-ザ・バットマン-』はDCEUとはそれぞれ全く別の映画と位置付けられています。『ウルトラマントリガー』の映画と『シン・ウルトラマン』ぐらい違う)。

『ジョーカー』(c)2019 Warner Bros. Entertainment Inc. TM & (c) DC Comics

 特に後者の長期計画の中には、いま公開準備中の『シャザム!~神々の怒り~』や『ブラックアダム』、さらにミラー版『ザ・フラッシュ』も入っているようです。なのでこれらがキャンセルになることはなさそうです。

 DCが今後10年に向けて動き出したこと、レディー・ガガのハーレイ・クインとワクワクしますが、個人的にはどういう形でもいいから『バットガール』は観たいし『ブルービートル』もぜひリリースしてほしい。

 最後に、グラント・ガスティン出演の『THE FLASH/ザ・フラッシュ』がシーズン9でファイナルです。タイミング的にミラー版『ザ・フラッシュ』の公開年の2023年にグラント版『THE FLASH/ザ・フラッシュ』が終了。実はTVの方の『クライシス・オン・インフィニット・アース』には時空を超えミラー版フラッシュがガスティン版フラッシュと会うサプライズがありました。今度はガスティン版フラッシュがミラー版『ザ・フラッシュ』の映画に出るかもしれませんね。

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