視聴者が求める“朝ドラ受け“とは何なのか SNSの発展とともに変化した約10年間の歩み

 先日、観ていて印象的な“朝ドラ受け“があった。7月26日放送の『あさイチ』(NHK総合)にて、博多大吉が「このように我々も朝ドラ受けを諦めるつもりはありません。引き続き、よろしくお願い致します」と宣言したのだ。

 これは同日放送の『ちむどんどん』(NHK総合)でヒロインの暢子(黒島結菜)や良子(川口春奈)、歌子(上白石萌歌)たちがそれぞれに立ちはだかる問題に対して諦めない姿勢に習っての発言であるが、筆者はその数日前に「“朝ドラ受け“は無くなる?『ちむどんどん』で顕著な減少 異変か必然か」(※1)といったタイトルで記事化され、ヤフトピ入りしたネットニュースへの受け、アンサーでもあるのではないかと捉えている。

 そもそも『あさイチ』での朝ドラ受けとは、『あさイチ』のメインキャスターが井ノ原快彦、有働由美子アナウンサー、柳澤秀夫の3人の時代に始まった朝ドラの感想トークのようなものである。『あさイチ』は2010年3月にスタートしており、それと同じタイミングで放送が開始された朝ドラが、松下奈緒がヒロインの『ゲゲゲの女房』。そこから朝ドラ受けがいつ頃から始まったのか正確なソースは残ってはいないが、国民的な大ブームを巻き起こした2013年の『あまちゃん』で朝ドラ受けも一緒に注目される一つのきっかけとなったと言える。

 また、井ノ原は2016年に出演した『ボクらの時代』(フジテレビ系)の中で、独り住まいの祖母が「朝ドラを見ても感想を誰にも言えない」とこぼしたことが朝ドラ受けを始めた理由にあることを語っている。当時は視聴者から朝ドラ受けへの苦情が寄せられ上層部から週3までと止められていたそうだが、それでも井ノ原は朝ドラ受けを続け今に繋がるスタンスと信頼を確立していった(※2)。

 筆者が井ノ原の朝ドラ受けで最も記憶に残っているのが、2017年放送の『ひよっこ』での一コマ。物語も最終盤の第148話にて、ヒロイン・みね子(有村架純)が秀俊(磯村勇斗)に「大好き」と告げる場面がある。これはあくまで秀俊から見た視点/画角であるが、有村架純のおよそ15秒にわたるカメラ目線と「大好き」は視聴者に強烈なインパクトを与えた。番組はそのまま『あさイチ』へ。井ノ原は「いやー、ちょっと告られちゃいましたよ……」とすっかりメロメロ状態になっていたのだ。

 その翌週、『あさイチ』の「プレミアムトーク」に有村が登場。1秒でも長く有村を見つめていたい井ノ原の『ひよっこ』愛が爆発した回となったが、これに対抗心を燃やす者がいた。朝ドラ放送前の『おはよう日本』にて、トークの隙間に朝ドラネタを散りばめたり、朝ドラ放送前に“朝ドラ送り”を定着させた生粋の朝ドラフリーク・高瀬耕造アナウンサーである。

 有村が『あさイチ』に出演したこの日、『おはよう日本』で高瀬アナは有村に「番組に来てください」とラブコールを送っていた。これに有働アナが「そっちが来い」と反応。すると『あさイチ』の番組中に挟まれる5分間のニュースに高瀬アナ(この枠を担当するのは極めて稀)が登場。真面目かつ平静を保つことが絶対なニュース番組のラストで、高瀬アナは「有働さん、イノッチさん、失礼しました。ですが、有村さん。『おはよう日本』でお待ちしております」と再び有村に呼びかけたのだった。これに有村をはじめとする『あさイチ』のスタジオは大爆笑。有働アナが「よくあんな真顔で言えるわ!」と賞賛しながらも、1分で移動できる距離にあるスタジオがあることから井ノ原が「高瀬さんお待ちしております」とやり取りをした。現在はアカウント自体が削除されてしまっているが、その後、『ひよっこ』のSNSに有村と対面することができたデレデレ顔の高瀬アナのツーショットがアップされたところまでがこの話はセットである。

 2018年4月からは『あさイチ』が大幅リニューアル。2代目キャスターとして博多華丸・大吉の2人と近江友里恵アナウンサーの体制でリスタートすることとなった。このタイミングで始まった朝ドラが、永野芽郁がヒロインを務める『半分、青い。』だ。もちろん朝ドラ受けは継続。湧きあがった感情を素直に伝える朝ドラトークはそのままに、博多華丸がドラマ好きであることからも時折コアなネタや視点が見られるようになっていった。また、この頃から朝ドラ受けが朝ドラ自体にも影響を与える存在となっており、『半分、青い。』でヒロインの幼なじみ・律を演じた佐藤健は『あさイチ』出演時に「むしろそっちを見るために朝ドラ見てるところあります」と発言。脚本家の北川悦吏子は華丸との対談にて、「華丸さんが待っているから、そろそろ今日はやめるね」というナレーションで朝ドラが幕を閉じる“朝ドラ渡し”を試みようとしたことを明かしている(必ず朝ドラ受けがあるとは限らないため案は却下された)。

 2020年3月より放送の『エール』からは、働き方改革から土曜日のオンエアが振り返り放送に。朝ドラ好きの「朝ドラおじさん」を公言していたバナナマン日村勇紀が務めた解説は、朝ドラ受けに限りなく近い立ち位置と言える。

 2021年3月に近江アナがNHKを退職し、新たに鈴木奈穂子アナウンサーがキャスターに就任。その頃放送していた朝ドラは杉咲花がヒロインを務める『おちょやん』の終盤だった。その後は「#俺たちの菅波」のハッシュタグを生んだ『おかえりモネ』、鈴木アナも思わず号泣した『カムカムエヴリバディ』と続き、現在の『ちむどんどん』に至っている。

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