『空白を満たしなさい』は自分を見失いそうなときに見返したい “生きること”を描いた最終回
柄本佑が主演を務めるドラマ『空白を満たしなさい』(NHK総合)最終話では、徹生(柄本佑)の耳に「世界中で復生者が次々に消えている」というニュースが飛び込む。
ラデック(ブレーク・クロフォード)や木下(藤森慎吾)といった志を共にした復生者の仲間が消えていき、徹生も残された時間は長くないことを悟る。その中で徹生が起こした行動は、息子・璃久(斉藤拓弥)や妻・千佳(鈴木杏)といった家族の“空白”を満たしていくことだった。
幼い璃久もいずれ父が自殺したこと、復生者として生き返った事実を受け止めるべき時が来る。その璃久にとっての“空白”を予測し、徹生は千佳と未来の璃久に向けたビデオレターを撮影するのだった。伝えたかったのは、自殺を選んだがそこには家族2人を置いていくつもりはなかったこと、最後の記憶“空白の30分”にあったのは「生きたい」という思いだったこと。お互いの出会いから振り返っていった徹生と千佳は、気がつけばリビングで朝を迎えていた。璃久との距離もすっかり埋まり、家族としての絆がより一層深まっていく一方で、徹生には2度目の死の足音が近づいていく。徹生が一瞬、一瞬を大事に生きたいと強く思うのは、死期が目の前に迫っているからこそでもある。
千佳にとっての“空白”は、子供の頃に両親との間で生まれた確執。ほかの回に比べてかなり濃厚な50分となっている最終回で、千佳の幼き記憶は直接的には描かれないが、「私は世界一心が汚い子供です」と書かれたTシャツが母・薫(木野花)からの虐待であることは、私たちの想像を容易に満たしていく。ストレスから今も精神的な病を患っている千佳。長らく絶縁状態にあったのだろう。久しぶりに実家を訪れた千佳が抱く母親への恐怖、そして今も変わらない母親からの一方的な態度が徐々に露呈していくこととなる。
それは価値観の押し付け。食卓を囲むシーンで薫が徹生に語りかける「肉は食べないんです。あれはお腹が汚れるから。腸の内側がたばこのヤニみたいに真っ黒になるんですよ」というセリフは、彼女がどのような人物かを一発で理解させる。さらに自分の自殺によって千佳を苦しませてしまったことを謝る徹生に薫が言い放つのが「やっぱり、と思いましたよ」という衝撃の一言。
自殺したのは徹生が悪いのではなく、千佳が原因にあるのだと、あくまで徹生は「犠牲者」だと言い切る。千佳を目の前にして、顔色一つ変えず淡々と話す薫に飲まれそうになりながらも、徹生は強い信念を持って「僕は彼女に会えたことが人生の中で一番幸福なことだったと思ってます」と笑顔で返答する。決して薫に理解されなくても妻を肯定することで、千佳の中にある暗闇は薄らいでいく。帰り際、幼き幻影は千佳に優しく微笑んでいた。