『スプリガン』はなぜいま新たにNetflixでアニメ化されたのか 1998年の劇場版と比較

 1990年代を中心に人気を博した、漫画『スプリガン』(たかしげ宙原作、皆川亮二作画)が、新たにアニメーションシリーズとして、Netflixで配信されている。強大な力を持つ古代文明の遺産の悪用を阻止する組織 “アーカム” に所属し、世界を飛び回り敵と対峙する“スプリガン”の一人である少年の戦いを描くアクション作品だ。

 原作となった漫画は一度、1998年に「STUDIO4℃」によって劇場長編アニメーションが製作されている。今回、新たなシリーズを制作しているのは、「david production」。「ゴンゾ」の元スタッフらが中核となった経緯を持ち、『ジョジョの奇妙な冒険』TVアニメシリーズや、2022年10月より放送予定のTVアニメ『うる星やつら』を手がけている制作会社だ。そんな今回のシリーズ、果たしてどうだったのだろうか。ここでは、その特徴や出来を考えながら、作品を評価していきたい。

 1話およそ40分強で、全6話という変則的な枠組みが、このシリーズの大きな特色である。さらにそれぞれのエピソードごとに微妙に尺が異なるというのは、秒単位の制約に縛られることがないという意味で、制作側にとってやりやすかった点だったのではないだろうか。そして1話完結の構成をとっていることで、視聴する側にとって区切りをつけやすいというのが、受け手にも小さくないメリットになっているといえよう。

 劇場版によくある1時間半程度の尺が、場合によっては内容の割に長すぎると感じられる劇場アニメーション作品があるなかで、TVの枠でも劇場作品でもない、『スプリガン』という題材にマッチした、この微妙な時間感覚が心地良く感じるのだ。商業的な意味では、従来のフォーマットに合わせる方が都合がいいのかもしれないが、今回の尺や構成は、内容重視という意味で“配信時代”ならではといえる部分である。

 作品の中身についても、制作側のパワーがかなり投入されていて、アクションシーンを中心に、全体的にクオリティが高いという印象だ。主人公の男子高校生、御神苗優(おみなえ・ゆう)が、攻撃の威力を増強させるA.M(アーマード・マッスル)スーツに身を包み、一人で敵の兵士たちを制圧していくという、凄まじい戦闘描写についても、3DCGの使用による立体的なリアリティによって説得力が担保されているように感じられる。

 そうなると、「STUDIO4℃」の劇場長編アニメーションと比べたくなってくる。とくに本シリーズ第2話「ノアの方舟」は、原作の同じエピソードを共有しているため、どうしても質を比較せざるを得ないだろう。

 この1998年の劇場版の出来は、衝撃的なものがあった。日本の90年代の手描きアニメの水準は非常に高く、『機動警察パトレイバー 2 the Movie』 (1993年)や、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)、『パーフェクトブルー』(1997年)などの作品に代表されるように、アニメーションによる写実的な映像表現が盛んに追求されていたといえる。このような手描きによるリアリティ部分や立体的な表現は、本シリーズがそうであるように、現在ではCGによって代替される場合が増えている。

 だからこそ、この時代のアニメーターの技術は、『スプリガン』の題材でもある、「失われた過去のテクノロジー」に、すでになりつつあるといえるのではないか。もし1998年劇場版をまだ鑑賞してなければ、ぜひ探してみて、手描きアニメの“粋”といえる、その職人的なアニメーションの凄みを味わってほしい。そんな、ある意味伝説的な作品と比べてしまうと、本シリーズのクオリティ水準は安定して高いとはいえ、驚くほどのものにはなっていないかもしれない。

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