『天気の子』を連想させる? 1970年代ハリウッド近郊を再現した『リコリス・ピザ』

 7月1日より映画『リコリス・ピザ』が公開されている。本作は『マグノリア』や『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』などのポール・トーマス・アンダーソン監督最新作にして、アカデミー賞では作品賞と監督賞と脚本賞にノミネート、その他数多くの賞に輝いた話題作だ。

 結論から申し上げれば、本作は「あの頃」にタイムスリップしたかのような楽しさいっぱいの青春恋愛映画にして、実は新海誠監督のアニメ映画『天気の子』にも近い魅力があるのでは? とも思える内容に仕上がっていた。その具体的な理由を記していこう。

『天気の子』的な「ビジネスパートナー以上、恋人未満」の関係

 本作の舞台は1970年代のハリウッド近郊であるサンフェルナンド・バレー。俳優として活動している15歳の高校生のゲイリー(クーパー・ホフマン)は、カメラマンアシスタントをしていた25歳の女性アラナ(アラナ・ハイム)に一目惚れをする。やがてゲイリーはウォーターベッドの販売を始め、再会したアラナはそのビジネスを手伝うことになるのだが……。

 若者が野心を燃やし華やかな時代での成功を目指す様は『あの頃ペニー・レインと』を彷彿とさせるし、同じくポール・トーマス・アンダーソン監督作かつサンフェルナンド・バレーが舞台の青春映画『ブギー・ナイツ』にも近い印象がある。そして、『天気の子』とは「出会った女の子と正当な恋愛関係を結ぶより前に、ビジネスパートナーになる」という流れが一致しているのだ。

 『天気の子』では主人公の少年が自身およびビジネスパートナーとなる女の子の年齢を過度に気にしていた一幕もあったが、この『リコリス・ピザ』では「年齢差」こそが彼らの関係に大きな影響を与えている。主人公の高校生はまだ15歳で、「君と出会うのは運命なんだよ」と積極的なアプローチをしたとしても、相手からは「私は25歳なんだから彼女にはなれない、法律違反よ」と真っ当な返答をされたりするのだ。

 『リコリス・ピザ』は、その年齢差が世間的に許されないことを発端とした、イチャイチャラブラブなカップルではない、「ビジネスパートナー以上、恋人未満」の関係こそが魅力になっている。2人はお似合いに見えるのだが、良い意味で「くっつきそうでくっつかない」もどかしさがあるし、「でも年齢差的によくない」という当たり前のモラルも「揺さぶり」をかけてくるし、それ以外の出来事でも2人の関係はギクシャクしてしまうし、時にはケンカもしてしまう。華やかな時代でビジネスに挑む楽しさが描かれていながら、正当な恋愛関係をなかなか結べない、その切なさも提示された物語なのだ。

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