『エルヴィス』『トップガン マーヴェリック』北米で異例の大接戦 映画館に盛況戻る
映画興行において稀に見る“歴史的決戦”だ。6月24日~26日の北米週末ランキングでは、『トップガン マーヴェリック』と『エルヴィス』がNo.1をめぐって大接戦。なんと両作ともに3日間の興行収入は3050万ドル、正式に数値が確定するまで最終結果がわからないという異例の状況だ。現時点では報告値がわずか176ドル高かった『トップガン マーヴェリック』が暫定の第1位だが、これはあくまで速報値にすぎないものである。
かたや2時間39分もの長尺である伝記映画、しかも題材的にターゲットの年齢層が高めの『エルヴィス』と、トム・クルーズ映画史上最高のヒットを記録し、5週目にして3000万ドル超えの『トップガン マーヴェリック』。コロナ禍の苦境が続いていた映画市場においては景気の良いニュースであり、同時にそうそう見られない組み合わせの対決となった。
日本では7月1日公開の『エルヴィス』は、“伝説のスーパースター”エルヴィス・プレスリーの生涯を『ムーラン・ルージュ』(2001年)のバズ・ラーマン監督が描いた一作。エルヴィス役を『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)のオースティン・バトラー、マネージャーのトム・パーカー大佐をトム・ハンクスが演じた。
本作は観客からの好評ぶりが顕著で、Rotten Tomatoesの観客スコアは『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)を超える94%、出口調査に基づくCinema Scoreでは「A-」を獲得。また、コロナ禍において客足が遠のいていた大人の観客たちが映画館に戻ってきており、観客の56%が35歳以上、29%以上が55歳以上という調査結果も出ている。『ハウス・オブ・グッチ』(2021年)、『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021年)など大人向けの長尺映画が苦戦を強いられた中、初動成績が3000万ドル超えという結果は大きな達成だろう。
『エルヴィス』はすでに海外市場で2000万ドルを記録しており、現状の全世界興行収入は5050万ドル。製作費は8500万ドルと報じられており、宣伝費を含む回収の可能性は未知数だが、新体制となったワーナー・ディスカバリーの幹部陣も満足しているという。
争う『トップガン マーヴェリック』は、北米でのIMAX再上映などを受け、前週比-31.7%と粘り強く成績をキープ。北米興収は5億2172万ドル、海外興収は4億8470万ドルで、世界累計興収はついに10億ドルを突破した。コロナ禍において世界興収10億ドル、北米興収5億ドルという記録を達成したのは『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021年)に続き2作目となる。
そして、これを追いかけるのが第3位の『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』だ。週末3日間の北米興収は2644万ドル(前週比-55.3%)で、北米累計興収は3億ドルを超えた。海外興収は4億4388万ドルで、世界累計興収は7億4666万ドル。中国でとりわけ秀でた数字をキープしていることもあり、『トップガン マーヴェリック』に続いて10億ドル突破もありうると予測されている。
第4位に初登場となった『ブラック・フォン』は、『ドクター・ストレンジ』(2016年)のスコット・デリクソン監督による新作ホラー/スリラー映画。北米では3日間で2337万ドル、海外45市場では1247万ドルを記録し、世界興収は3584万ドルとなっている。
少年を狙った誘拐事件が連続する町で、主人公フィニーはマスク姿の男にさらわれ、地下室に監禁されてしまう。部屋には断線した黒電話が残されているが、突然、電話のベルが鳴り響く。フィニーが電話に出ると、声の主は殺害された被害者たちだった。彼らがフィニーに助言を与える一方、妹のグウェンは兄の誘拐にまつわる夢を見るようになる……。
ホラー小説の巨匠、スティーヴン・キングの息子である作家ジョー・ヒルの同名小説を映画化した本作は、デリクソン監督が『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』を降板したのち、どうしても自分で撮りたいと熱望した一作。キング作品を思わせる“少年少女映画”であり、誘拐事件と超能力が絡み合うスリラー、死者をめぐるホラー、そして密室が舞台の脱出ゲーム的サスペンスが融合した。緻密に練られた脚本と、恐怖と心理描写を丁寧に両立する演出の妙が見どころだ。Rotten Tomatoesでは87%フレッシュ、Cinema Scoreでは(ホラーでは珍しい)「B+」評価を獲得。日本公開は『エルヴィス』と同じく7月1日だ。
『エルヴィス』、『トップガン マーヴェリック』、『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』、『ブラック・フォン』と、第1位~第4位の全作品が週末興収2000万ドルを超えるのはコロナ禍以降はじめてのこと。前回は2018年11月22日~25日という感謝祭の週末であり、今回と同じく祝日が関与しない週末なら2017年7月21日~23日以来となる。『エルヴィス』で大人の観客が劇場に戻ってきたことも含め、春先のファミリー映画で予兆が見られた“業界の復活”が、いよいよ現実のものとなった感がある(参照:『バッドガイズ』『ソニック』ファミリー映画が北米興行トップ飾る 映画業界に復活の兆し)。