『神は見返りを求める』のジャンルレスな衝撃 吉田恵輔監督の毒の裏にある優しさを探る

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週はYouTubeにちょくちょく姿が映っている島田が『神は見返りを求める』をプッシュします。

『神は見返りを求める』

 『ヒメアノ~ル』『愛しのアイリーン』『空白』など、常に観るものにトラウマを残すような、露悪的な作風で独自の存在感を発揮し続けてきた吉田恵輔。『神は見返りを求める』というタイトルから分かるように、本作も彼の意地の悪さ(褒め言葉)が全開であることはまず言えるが、近年のカラーにも期せずしてなっていた「道徳の限界」という主題から来るヘビーさと少し距離を置いた、ブラックコメディ的な仕上がりとなっており、その分より門戸が開かれた作品と言える。その点においては、デビュー作『机のなかみ』にあった、登場人物の勘違いが生むユーモアにも共通したものが感じられ、原点回帰的な一作とも捉えられるかもしれない。

 本作の主な登場人物は、合コンで出会ったイベント会社に勤める田母神と、YouTuberのゆりちゃん。やがて、ゆりちゃんの人気上昇によって、2人の間で距離が生まれ、「神」と言われるほど優しい(とされる)田母神の狂気が暴走するというのがあらすじ。YouTuberというモチーフは同時代性をあまりに強く感じさせてしまうが故に、ややもするとかっこ付きの「社会派」や「ドキュメンタリー風」に流れていきがちな素材ではあるが、決してそうはならない点も、吉田監督の脚本の仕上がりに依拠するところが大きいように感じる。自撮り棒でちょっとしたチャンバラをするシーン、iPhoneのカメラがある意味人生を奪う銃=舞台装置として機能する様も意外にも新鮮かつこれ見よがしに映らず、YouTube風映像のエディットも、作品への関心を失わせないものだった。『真犯人フラグ』(日本テレビ系)やNetflix『イカゲーム』など、動画配信というモチーフは現代劇を描くにあたってもはや必要不可欠なものになっているが、逆に作品においてはノイズとなってしまうことも多い現状ではなかなか貴重なのではないだろうか。

 一方、本作は、もちろんある意味YouTuberのバックステージものであるが、バディの挫折と離散を描く青春映画でもあり、その優しさ(断れなさ)故に奔走せざるを得なかった田母神によるスリラーでもあり……。ひとえに何らかのジャンルに括れない作品としての強度を秘めている。

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