『シニアイヤー』が突きつける学園ドラマのアップデート 『ミーン・ガールズ』からの変化

『シニアイヤー』に感じる学園ドラマの変化

 十年一昔とはよく言ったもの。10年前のトレンドや価値観はすぐに古くなり、アップデートしなければ時代から取り残されてしまうが、若かりし頃の輝いていた思い出をいつまでも大切にして、あの頃に戻りたいと考えている人はいるだろう。

 筆者は、いまだにルーズソックスで渋谷のセンター街をぶらぶらしていたときの楽しさを覚えているし、ブリトニー・スピアーズに影響されて買ったベルボトムのジーンズは歴代ジーンズの中でも1番似合っていたと思っている。だが、どんなにサイコーな学生時代を送っていても、時代の変化と共に考えやファッションはアジャストしていかなければならない。だが、そのアジャストする時間が与えられなかったら……?

 今回は、Netflix映画『シニアイヤー』を軸に、20年間で変化した価値観と映画における表現について書いていこうと思う。

 『シニアイヤー』は、2002年に不幸の事故で昏睡状態に陥ったプロムクイーン候補のステファニーが、2022年に目を覚まして世の中の流れに困惑しつつも自分に向き合う物語。伝えたいメッセージは「みんな違って、みんな美しい」だ。

 ターゲットは、アラフォー世代。ブリトニー・スピアーズがデビューしてヒット曲を連発してファッション業界にも多大なる影響を与え、アバクロンビー&フィッチの服が飛ぶように売れ、『タイタニック』でレオナルド・ディカプリオが女性たちの心を掴んでいた時代に高校生で、今は親世代になっている人たちだろう。

 当時、学校の人気者になるには「規定の外見」になる必要があった。オシャレな髪型、派手でボディラインをみせる服装、派手な車、派手な友達、CK Oneの香水、ブランドもののバッグや財布、イケている彼氏と付き合うことがバロメーターだった気がする。乱暴に言えば、それさえ揃っていれば人気者になることができたのだ。

 『シニアイヤー』の主人公・ステファニー(レベル・ウィルソン)は、高校生活を豊かにするべく、学園の人気者女子になろうと「高校デビュー」した後発的なギャルだ。生まれつき恵まれた容姿を持つ先天的なイケている人たちに憧れと強い競争心を抱きながら、マニュアルに従って自分を磨いて、学校のヒエラルキートップとされるチアキャプテンの座を手に入れた。

 だが、昏睡から目覚めた2022年は、そんな「イケていた人たち」の影で泣いていた人たちが包括的な社会を求める時代だった。きちんと勉強して進学した人たちの努力が報われ、外見の派手さよりも志が評価される時代に変化していたのだ。

 『シニアイヤー』には、誰もが疎外感を抱かない学校が登場する。学長は、どんなときでもステファニーを支え続けた「垢抜けない」親友で、学生時代は学校に居場所がなくて悩んでいた。だからこそ、競争心を煽るプロムクイーンとキングの投票は廃止、チアリーディングはSDGsをテーマにした簡易エクササイズのみ、カフェテリアはヒエラルキーの見える化を防ぐために、大きなテーブルをシェアするスタイルに変え理想の高校を作ったのだ。学外にも多大なる影響力を持つインフルエンサーはいるものの、学生たちは劣等感や疎外感に苛まれている様子はない。多様性が認められているために、好きなファッションを楽しみ、将来を見据えた活動をしている。子どもの自尊心を育み、いじめにつながる要素も少ない。保護者の理想に近い学校と言えるだろう。

 ステファニーはそんな学校の中で、プロムクイーンを復活させる。しかし、最終的には今の価値観を受け入れて前に進むのだ。

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