『シニアイヤー』が突きつける学園ドラマのアップデート 『ミーン・ガールズ』からの変化

『シニアイヤー』に感じる学園ドラマの変化

 だが、筆者は一つ気になった。『シニアイヤー』は、物語として楽しいのだろうか、と。2004年に公開された学園コメディ映画『ミーン・ガールズ』と比較すると、どうしても展開やキャラクターアークに甘さが見えてしまう。

 『ミーン・ガールズ』は、タイトルにもあるとおりミーン(意地悪)なガールズが出てくる学園ものだ。ヒエラルキーのトップに君臨し、自分のお眼鏡にかなわない人たちのことなど見向きもしない。だからそこに対立が生まれ、物語になっていく。キャラクターアークは比較的単純だが、ラストでは、外見を着飾ることで生まれたつながりよりも自分らしくいられる場所で人間関係を構築してハッピーに終わる。

 一方の『シニアイヤー』では、本当の意味での“ヴィラン”がいない。唯一、ステファニーの長年のライバルであるティファニー(ゾーイ・チャオ)が妨害行為をしてくるが、ステファニーを苦境に立たせるほどのインパクトではない。ティファニーの娘でインフルエンサーのブリー(ジェイド・ベンダー)はステファニーの障害になり得るが、途中で設定が崩壊して単なる意識の高い善人になってしまっている。ステファニーを苦しめるのは時代の変化と、彼女が最も輝いていた時代のスタンダードだった外見至上主義に囚われる心なのだ。

 それを強烈に印象付けるくだりがある。ステファニーが人生の目標としていた「成功者」が、浮気された挙句に捨てられ、ウーバードライバーとして現れる。この人物を演じているのがアリシア・シルヴァーストーン。1995年の映画『クルーレス』をきっかけに大ブレイクして以来、スキャンダルの女王の名をほしいままにしたシルヴァーストーンが「プロムクイーンになることなど意味はない。栄光の過去に縛られるべきではない」とアドバイスするのだ。シルバーストーンの輝かしい時代を知っているアラフォー世代にとって、衝撃的なキャスティングであり、説得力を持たせたのではないだろうか。

 最終的に、『シニアイヤー』は全員が今の価値観にアップデートして大団円を迎える。その様子はとても平和で今の時代らしく、鑑賞後は自分を好きになれそうだ。だが、『ミーン・ガールズ』のような時代を象徴する映画になれるかどうかはわからない。いや、そもそも強烈なヴィランを描きにくい今の世の中で、緩急のあるストーリー展開をする学園ものを作ること自体が難しいのかもしれない。

 おそらく、筆者は今でも学園ものには古い価値観を求めているのだろう。『シニアイヤー』は、そんな過去の思い出に囚われるアラフォー世代に、今の学園ものの作品を理解して楽しむ頭のアップデートが必要だと優しく語りかけているのかもしれない。

■配信情報
Netflix『シニアイヤー』
Netflixにて独占配信中
監督:アレックス・ハードキャッスル
出演:レベル・ウィルソンほか
(c)Boris Martin/Netflix

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