『悪女(わる)』が映す日本社会30年間の停滞 令和版の問題は平成版よりも深刻に

『悪女(わる)』が映す日本社会30年の停滞

 2022年版『悪女(わる)』でも「恋」のために田中が出世を目指す姿が反復されている。多様性、男女平等、働き方改革といった理想こそ普及しているが、出世を拒む「ガラスの天井」は温存されており、それが女性社員を苦しめている。最初にそのことを実感させられるのが、人事部を取りまとめる夏目聡子が女王蜂症候群と言われ、女子社員からも煙たがれている姿だ。2022年版『悪女(わる)』で夏目を演じるのは、1992年版で田中を演じた石田ひかりなのだが、かつて出世を目指して楽しく仕事をしていた田中の「その後」を見せられたようで、複雑な気持ちになった。

悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~

 第3話で峰岸は「女性社員はみんな田中麻理鈴」と言う。1992年版『悪女(わる)』の最終話でも峰岸(倍賞美津子)は「誰の中にも田中麻理鈴はいるの」と言い、働く女性の象徴として田中は描かれていた。これは肯定的なメッセージにも聞こえるが、初代・田中を演じた石田ひかりが、新人社員の田中の足を引っ張る姿を見ていると、始めは誰でも理想に向かって前向きに働けるが、年を重ねるにつれ「組織のしがらみによって疲弊してしまう」と言われているようにも響く。石田ひかりの苦しそうな表情は、1992年版『悪女(わる)』が示した理想がいまだ実現されていない日本社会が抱える30年間の停滞を表している。

 そんな「ガラスの天井」を打ち砕くことが峰岸の目的だということは、2作の『悪女(わる)』に共通するテーマだが、1992年版では「女性のための派遣会社設立」だった峰岸の計画は、2022年版では「女性管理職を5割にする」プロジェクト、通称「JK5」となっている。

 これは、人種、民族、性別などを基準にして政治家や官僚の数を均等に振り分ける「クオータ制」を会社に取り入れるという試みだ。峰岸が支援する島田専務が次期社長に就任したことでJK5プロジェクトはスタートする。優秀な女性社員が社内、社外問わず抜擢する峰岸。しかし強引な改革は社内で反発を呼び、職場の空気は悪化。管理職を辞退し会社を辞める女子社員も現れる。

悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~

 一方で男性管理職のリストラも進行しており、その裏でT・Oさんこと田村収(向井理)が暗躍していることが明らかとなる。男女平等を目指した結果、ついてこれない社員は男女問わずに切り捨てていく「能力主義」へと向かう峰岸と田村のやり方に田中が疑問を抱き、反旗を翻したところで、第9話は終了した。果たして最終話はどうなるのか?

 1992年版と比べると、コミカルで漫画チックな描写が増えている2022年版『悪女(わる)』だが、描かれる問題は1992年版よりも深刻で生々しいものとなっている。『悪女(わる)』が描く会社の困難は、今の日本が抱えている課題そのものである。

■放送情報
『悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:今田美桜、江口のりこ、鈴木伸之、高橋文哉、向井理
原作:深見じゅん『悪女(わる)』(講談社『BE・LOVE』)
脚本:後藤法子、松島瑠璃子
演出:南雲聖一、内田秀実、山田信義
プロデューサー:諸田景子、小田玲奈、大塚英治、平井十和子
チーフプロデューサー:田中宏史
主題歌:J-JUN with XIA(JUNSU)「六等星」(First JB music)
制作協力:ケイファクトリー
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/waru2022/

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