『モノノ怪』は15年経っても色褪せない 唯一無二の映像美と“薬売り”というキャラクター

『モノノ怪』は15年経った今も面白い!

 そして、なんと言ってもそのストーリーの奥深さだ。「座敷童」「海坊主」などをモチーフにオムニバス形式でエピソードが紡がれていく『モノノ怪』。

 例えば「座敷童」。ある夜、身重の女が宿屋を訪ねてくる。その宿で与えられた部屋で、女はいるはずのない子供たちの声を聞く。実はその宿はかつて女郎屋であり、その部屋は身籠った遊女達を堕胎させるための部屋だった。生まれることができなかった赤子たちが座敷童となり、我が子が生まれるのを心待ちにする女に呼応し、怪異を引き起こしていく。

 例えば「のっぺらぼう」。嫁ぎ先の一家を皆殺しにしたとして牢に繋がれた女・お蝶。お蝶は「武家に嫁いでほしい」という母の願いに応えるべく厳しい躾に耐えたものの、嫁ぎ先でも飯炊き女のように虐げられる日々。自分を抑圧し続けてきたお蝶の心にモノノ怪が忍び寄る。

 薬売りは言う。「モノノ怪の形を成すのは人の因果と縁。人の情念や怨念に妖が取りついた時、妖はモノノ怪となるのです」。妖怪を媒体として描き出すのは、欲望や傲慢、あるいは優しさ、強さなど、変わることのない人間の心だ。

 この記事を執筆するにあたって数年ぶりに『モノノ怪』を見返したが、古さを感じないどころか、時代の変化に左右されない、ひとつひとつのエピソードの強度に驚かされた。

 「のっぺらぼう」の母に抑圧されたお蝶のエピソードなどは、「毒親」などの言葉が一般化してきた今、余計に胸に迫るものがある。母にきつく当たられていながら「母上様が好きでした」と繰り返すお蝶の姿が哀しい。

 一過性のヒット作なら、どの時代にも存在する。けれど、それが経年に耐えうるだけのものを描けているかどうかは、時が積み重なってみないとわからない。今なお色褪せぬ『モノノ怪』の真価は、15年経った今、改めて証明されたように思う。

 十五周年祭では重大発表もあるという。再び『モノノ怪』の世界に浸るとともに、新たな展開を楽しみに待ちたい。

参照

※https://www.mononoke-15th.com/

■イベント概要
『モノノ怪』十五周年記念祭
6月18日(土)開場:16:00 開演:17:00
場所:フジテレビ本社1Fマルチシアター
出演:中村健治(監督)、櫻井孝宏(薬売り役)、山本幸治(プロデューサー)
MC:吉田尚記(ニッポン放送)
(c)モノノ怪製作委員会
公式サイト:https://www.mononoke-15th.com/

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