『ちむどんどん』“ニーニー”は朝ドラ史に残るダメ男か 問題行動を振り返る

 NHK連続テレビ小説『ちむどんどん 』のヒロイン・暢子(黒島結菜)は上京後も兄・賢秀(竜星涼)に振り回されっぱなしだ。

 母・優子(仲間由紀恵)や大叔父の賢吉(石丸謙二郎)までも巻き込んで、甘い投資話に騙された賢秀。それがわかると今度は智(前田公輝)が働くサンセットバーガーで客を巻き込んで大暴れし、挙げ句の果てにお店から弁償代まで請求される始末だ。もちろん無職の賢秀ではなく、全ての尻拭いは周囲に降りかかってきて、暢子のせっかくの上京の夢も一時は絶たれてしまう。

 賢秀は暢子にそれを詫びた上で、「オレはただ、うれしかったわけよ。生まれて初めて、親以外の大人から褒められてうれしかったわけよ。今までずっと、ウソつきとか、ろくでなしって言われてきて。初めて褒めてくれた人を信じたかった。この人を信じて、オレを馬鹿にした大人たちを見返してやりたかった。分かってくれんか?」と続けた。“自業自得”には違いないものの、彼も彼なりにどこかで一花咲かせたいと常々思っており、そのきっかけがなかなか掴めずくすぶり続けていたことだけはわかる。

 「頭のないやつは体を使うしかない!」という賢吉の言葉をそのまま受けて、上京してプロボクサーを目指す賢秀の短絡ぶりは健在で、ただその猪突猛進ぶりが一時的に比嘉家を救い、夢を見させてはくれた。実際には対戦相手の体調不良により“たまたま”勝利し、ジムの会長に泣き付き前借りし、周囲にも頼み込んでの借金ではあったわけだが、そのファイトマネーを迷わず実家に送金したのは事実だ。

 そして、そのおかげで暢子は東京で自分の夢を叶えるための切符を手にした。またそんな奇跡的な“たまたま”をまやかしであっても手にできてしまうのも賢秀の悪運の強さとも言える。暢子が上京した頃にはジムからも姿を消し彼女を困らせるわけだが、兄の目撃情報があった横浜・鶴見に向かったからこそ、沖縄県人会会長の平良三郎(片岡鶴太郎)との出会いがあり、働き口として銀座のイタリアンレストラン「アッラ・フォンターナ」を紹介してもらえることになったとも言えなくはない。ただ、これはもちろん暢子が必死に行動し、縁を手繰り寄せたからこその話で、賢秀の関与は“結果論”でしかないのはもちろんだが。

 しかし、鶴見でたまたま再会を果たした賢秀は、兄の顔を見て怒りながらも安堵の表情を滲ませた妹・暢子の持ち金を拝借して姿を消すという、もうフォローの余地もないダメ男ぶりをまたしても見せつける。しかもそのお金を競馬に注ぎ込み一攫千金を夢見るという負のループ。「困ったら俺を一番に頼れ。暢子のためなら何でもやるよ! 俺は死ぬまでお前のニーニーやさ」と言っていたあの言葉は何だったのか……もはや“ぽってかす”では済まされない。

テルヲは 『おちょやん』に何を残したのか 千代にとって“芝居”が意味するもの

毎朝、泣き笑いの人生劇場を届けてくれる連続テレビ小説『おちょやん』(NHK総合)。先週放送の第15週「うちは幸せになんで」では、…

 振り返れば、これまでも朝ドラではトラブルメーカーが登場してきた。稀代の“ダメ男”の筆頭は『おちょやん』(NHK総合)のヒロイン・千代(杉咲花)の父・テルヲ(トータス松本)だろう。幼い千代(毎田暖乃)に仕事も家事も全て任せ、飲んだくれていたテルヲは、後妻を迎え入れるなり邪魔になった娘を芝居茶屋「岡安」に奉公に出す。「うちは捨てられたんやない。うちがあんたらを捨てたんや」という鮮烈な一言を幼い我が子に言わしめておきながらも、以降も度々千代の前に現れては金をせびり、彼女の持ち金を持ち出すこともあった。そのさまはまさに寄生虫のようだ。テルヲの場合には、かなりの享楽主義者で常に酒に溺れており、その間“誰かのために”なんてことはもちろん頭の片隅にもなく、騙し騙しその日暮らしで生きているかのようだった。それでも、死期を悟ってからは“許されることなどない”と分かりながらも這いずり回ってでも、最後に“娘のために”と思うより先に反射的にとる彼の感情剥き出しの言動には胸が詰まるものがあった。

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