福本莉子「挑戦が詰まっている」 初のストレートプレイと原点である舞台の魅力を語る
2020年の“全公演中止”から2年の時を経て、世田谷パブリックシアターにて開幕した舞台『お勢、断行』。江戸川乱歩の作品世界を下敷きに倉持裕が作・演出を務める本作は、ある資産家の屋敷を舞台に、稀代の悪女・お勢を中心とした人々の“善悪”がせめぎ合い、やがて惨劇へと発展していくさまを描いたもの。そんな本作にて、福本莉子が初めてストレートプレイに挑む。彼女が演じるのは資産家の娘・晶だ。
ドラマ『消えた初恋』(2021年/テレビ朝日系)でヒロインを務め、今年は映画『君が落とした青空』や『20歳のソウル』『今夜、世界からこの恋が消えても』などの出演作の公開が相次ぐ福本が、自身のキャリアの原点だと語る舞台。主演の倉科カナを筆頭に、江口のりこ、池谷のぶえ、堀井新太、粕谷吉洋、千葉雅子、大空ゆうひ、正名僕蔵、梶原善といった経験豊かな先輩俳優陣に囲まれた環境の中で、彼女はどのように本作と向き合っているのか。日々進化する俳優としての自身の心境や、福本が思う舞台の魅力について語ってもらった。
ようやく欲が生まれてきた
ーー3度目の舞台出演で、ストレートプレイには初挑戦ですね。
福本莉子(以下、福本):私にとって初めての大きなお仕事が舞台でした。「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリと集英社賞(セブンティーン賞)をいただいたのが高校1年生のときで、本格的にお仕事をするようになったのは高校3年生の3学期。そのときに出演したのがミュージカル『魔女の宅急便』で、その次に出演した舞台は『あらしのよるに』という音楽劇でした。3度目にしてついに、ストレートプレイに挑戦することになりました。
ーーデビューから短い期間に、映画、ドラマ、CM、そして舞台と、幅広く活動されていますよね。
福本:いまでもそうですが、触れるものすべてが新鮮です。毎年初めてのことに挑戦させていただける環境にいるので、特に最初の数年は本当にあっという間でした。一部記憶が抜け落ちているところがあったりもします(笑)。こうしてお話をさせていただく際に、いろいろと思い出しますね。これまでは目の前の一つひとつのことに精一杯だったので、俳優としての欲が出るようなところまで至ることはありませんでしたが、最近になってようやくその欲が生まれてきたのを感じます。今回のように「ストレートプレイに挑戦してみたい!」ということだったり、「ブッ飛んだ役を演じてみたい!」という気持ちだったり。
ーー次なるステップですね。これから福本さんならではのスタイルも出来ていくのでしょうね。
福本:そうですね。やはりどうしても、合う/合わないはありますし、いろいろやってみたうえで、“自分の本当にやりたいこと”、“目指すべき女優像”のようなものを探すきっかけをたくさんいただいているところだと感じています。
ーーそんな福本さんのさまざまな挑戦の中の一つが、今回の『お勢、断行』というわけですよね。出演が決まったときの心境はいかがでしたか?
福本:今回の出演が決まる前から、倉持さんの作る世界に魅了されていました。何より倉持さんの“笑いのセンス”が好きなんです。「笑い」って難しいですよね。狙い過ぎてもダメですが、そこにはかなりの計算が必要だと思うんです。でも倉持さんの作品は、その狙いや計算を感じさせず、ついクスリと笑わせられます。この点が倉持作品の魅力の一つだと思っていて、出演が決まったときは本当に嬉しかったです。
ーー台本を読んでみていかがでしたか?
福本:けっこうダークな作品で、わりと難しいお話だと感じました。一度読んだだけではとても理解できない。ですが稽古初日の本読みの際に、共演者の方々と一緒に声に出して読んだことでようやく理解できたというか。「あ、こういうことか!」という発見が多々ありました。私が一人で読んでいたときには思いもよらなかったところで笑いが起きたり。これまた新鮮な体験でした。
ーーそれぞれの演者の方が実際に声に出して読んでみることでこそ、立体的にシーンが見えてくるんでしょうね。
福本:文字情報だけだと掴めなかったところが掴めた感覚がありました。本作の物語の時間軸は直線ではないので、混乱しちゃうんです。それにどの登場人物も内心思っていることと口にすることが違うのが、本作の難しいところであり魅力でもあります。台本上だと、その表面的なものしか見えてこない。役を体現するうえで、いかにして内面までをも垣間見せられるかが重要だと感じています。
ーー本作は多くのキャラクターが入り乱れる群像劇の側面もありますよね。
福本:そうですね。どのキャラクターにもそれぞれの思惑があって、それが入り乱れて。私が演じる晶は、かき乱されるポジションで、お客さんの視点に近いのかなと感じています。彼女にとって誰が善で、誰が悪なのか分からない。あの人のことも信じたいし、この人のことも信じたい……けれどもそうしていくと、どんどん混乱してしまう。これが晶を演じる難しさでありおもしろさだと思います。彼女は複雑な家庭環境にあるのですが、その中でどう立ち振る舞うべきなのか。周囲との関係性や、各登場人物に対して抱えている気持ち、まずはそれらの大きさと深さについて考えなければならないねと倉持さんから言われました。
ーーたしかに、そのさじ加減で晶のキャラクターはもちろんのこと、作品の印象も変わってきそうです。
福本:倉持さん自身としても、晶は難しい役どころだと考えているようです。台本に記されていない各キャラクターの裏側のことまで考え過ぎてしまうと、お芝居自体が混乱しちゃうんです。だから「考え過ぎなくていいんじゃない?」と倉持さんにアドバイスをいただきました。台本に書かれていることを素直に演じてみて、他のキャラクターのアクションに素直にリアクションできるよう心がけてるところです。
ーー倉持さんとゼロから一緒に作っている感じなんですね。
福本:はい。倉持さんは演じ手にすごく寄り添ってくださるんです。稽古場は居心地がいいですね。錚々たるキャストのみなさんに囲まれた環境ですが、ここで私がリラックスして稽古に臨めているのは、倉持さんの存在が大きいです。