『鎌倉殿の13人』頼朝と義経、愛し合っていたはずなのに…… 西田敏行の“狸ぶり”がすごい

 『鎌倉殿の13人』(NHK総合)第19回「果たせぬ凱旋」。源頼朝(大泉洋)から鎌倉入りを拒否された義経(菅田将暉)が京に戻ってきている。北条義時(小栗旬)は頼朝と義経の関係修復を模索しているが、後白河法皇(西田敏行)がそれを許さない。

 「日本一の大天狗」と称される後白河によって、頼朝と義経は翻弄される。彼らはお互いを大切に思っているが、その関係は悪化していくばかりだ。

 頼朝への疑心をあおる源行家(杉本哲太)に対し、義経は「私は兄上とは戦いたくない」と断言していた。兄のため、平家を滅ぼすためだけに突き進んできた義経の眼差しに嘘偽りなどない。頼朝からの文を受け取ったときには、鎌倉へ戻れる、兄に会える、ととても嬉しそうな笑顔を浮かべていた。しかし義経は、後白河から検非違使も引き続き兼任するよう命じられた上、後白河の迫真の演技によってますます身動きが取れなくなる。

 義経を演じている菅田の演技がもっとも魅力的だったのは、法皇の策略に嵌った後である。土佐坊昌俊(村上和成)に襲われた義経は、行家から「鎌倉が送ってきた刺客だ」と伝えられ、兄・頼朝と戦うことが避けられない状況に追い込まれる。「兄上を討つ……」とつぶやくその表情は絶望していた。声をしぼり出すようにしてむせび泣く菅田の姿には、義経の深い悲しみが凝縮されていた。

 上洛した北条時政(坂東彌十郎)と義時の前に現れた義経は疲れ切っていた。これまでの義経なら、誰かと向き合うときには必ず、強い眼差しで相手の顔をぐっととらえていたが、この場面での義経には目に光がない。彼は虚ろな表情で兄との関係修復を望む。義経追討の宣旨が出たことを聞かされた義経は無力感に打ちひしがれた。

 人を信じすぎる義経は、行家からも後白河からも手の平を返された。そんな義経が本当に欲しかったのは、名誉でも称号でもない。時政と義時の元から去る前、義経は「御台所の膝の温かさを生涯忘れない」と伝言を残す。母の温もりを知らない義経は、政子(小池栄子)にそれを求め、膝枕をねだった。義経が本当に欲しかったのは身内からの愛だ。けれど、それももう叶わない。

 深い悲しみに暮れていたのは義経だけではない。兄・頼朝もまた、その表情に影を落とす。「どうやら九郎に戻る気はないようだな」と口にした頼朝の横顔は、弟を思いつつもやりきれない感情がうかがえて切なかった。政子曰く頼朝は、心の内では義経がいとおしくてたまらない。何度か追い返したことのある文覚(市川猿之助)の言葉を受け入れたのも弟の思いがあったからこそ。だからこそ、義経挙兵を耳にした頼朝の顔が心苦しく思える。視線を落とした状態からすっと顔をあげ、京へ攻め上る決意を固めたとき、その顔つきは悲しみに満ちていた。義経とは違い、頼朝は人を信じられず、思っていることを決して表には出さない。だが、このとき、心の内では義経と同じようにいとおしい兄弟を思い、むせび泣いていたのではないだろうか。

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