『鎌倉殿の13人』市川染五郎を大河でまだ観たかった “光”を失っていく義時の変化も必見
義高が討ち取られた後、小栗演じる義時の変化にも心を奪われる。頼朝からの命令に「できませぬ」と顔を強ばらせる義時だが、父・時政(坂東彌十郎)が「上総の一件で、鎌倉殿は腹をくくられた。あの方に逆らってはこの鎌倉で生きてはいけん」と言っていたことを覚えていないわけではない。「あなたのお命は、もうあなたのものだけではないのですよ」と言うりく(宮沢りえ)の言葉も重くのしかかる。
そして義時は、鬼となる覚悟を決めた。甲斐源氏・武田信義(八嶋智人)の嫡男・一条忠頼(前原滉)を斬ったとき、倒れ込む忠頼を見下ろす義時の表情に戸惑いも怯む様子もなかった。光澄の処刑に立ち会った後、工藤祐経(坪倉由幸)と言葉を交わした義時の声は、これまでに聞いたことがないほど冷たいものだった。信義と向き合う義時はこれまでとは別人だ。かつて頼朝と信義の間で板挟みになり、困惑していた義時はそこにいない。第15回で三浦義村(山本耕史)から「お前は少しずつ、頼朝に似て来ているぜ」と言われていた義時だが、忠頼を殺し、光澄を殺し、信義に起請文を書かせる義時は、時に恐ろしい一面をあらわにする頼朝の冷酷さによく似ている。
小栗の演技で強く印象に残るのは、政子との対話シーンでの変化である。義高を討ち取った光澄を決して許さぬと言った政子に対し、義時は「御台所の言葉の重さを知ってください」と諭す。このときの声色は、忠頼や光澄、信義と向き合ったときと同じだ。義時は御家人として御台所である政子に話すのだ。しかし次に「我らはもう、かつての我らではないのです」と口にしたとき、目に涙を浮かべながら、口元にほんの少しの笑みを見せた小栗の表情は、まぎれもなく政子の弟の義時だった。
幼い息子を抱きながら「父を許してくれ」と涙した義時。鎌倉で生きる覚悟を決めた義時は、政子に伝えた言葉の通り、もうかつての義時には戻れないのかもしれない。
■放送情報
『鎌倉殿の13人』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK