『ちむどんどん』と『ゴールデンカムイ』に通じるスタンス 食事を通して“生死”を描く
新しいNHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『ちむどんどん』がスタートして3週間が過ぎた。本作は沖縄本島北部の“やんばる”と呼ばれる地域で暮らす家族の物語だ。主人公は食べることが大好きで後に沖縄料理のお店を出すことになる比嘉暢子(黒島結菜)。タイトルの「ちむどんどん」とは沖縄の言葉で「心(ちむ)が高鳴る様子」のこと。明るく前向きなヒロイン・暢子の有り様を的確に表したタイトルだと言えるだろう。
脚本は羽原大介。井筒和幸監督の映画『パッチギ!』と李相白の映画『フラガール』の脚本で知られる脚本家で、朝ドラは、2014~15年の『マッサン』に続いて2作目の執筆となる。劇作家・つかこうへいに師事していた羽原は「社会派テイストの人間ドラマ」を得意とする脚本家で、笑えて泣ける物語の根底には社会に対する眼差しが必ず存在する。『ちむどんどん』ではその眼差しが沖縄へと向けられている。
本作は沖縄の本土復帰50年を記念して作られた朝ドラだが、沖縄が朝ドラの舞台となるのは今回が3度目。2001年に岡田惠和脚本で『ちゅらさん』、20012~13年に遊川和彦脚本で『純と愛』が作られている。
どちらも脚本家のカラーが強く打ち出された朝ドラの歴史に残る作品だったが、日本軍とアメリカ軍の戦争の戦場となり、米軍基地が今も残っている沖縄の歴史との向き合い方に関しては抑制的で、物語の向こう側に見え隠れするという距離感だった。
この2作に比べると『ちむどんどん』はより踏み込んだ形で、沖縄の歴史と向き合おうとしているように感じた。朝ドラという枠組で描けることの限界はあるだろうが、ここまで観た印象でいうと「食」を通して“沖縄”と向き合おうとする気概が強く感じられた。
前クールの朝ドラ『カムカムエヴリバディ』の序盤がハイスピードだったこともあってか、幼少期を2週に渡って放送した『ちむどんどん』はゆったりとしたスタートに感じたが、逆にそれが、暢子たちが暮らす沖縄での体感時間を追体験しているようで面白かった。まずはじっくりと暢子を取り巻く家族やお互いに助け合う地縁共同体の人間模様と土地に根ざした生活を丁寧に見せているという印象だ。その意味で、貧しいながらも幸せだった幼少期が子どもの目線から描かれていたのだが、ただ楽しいだけでなく現実の苦味が滲み出ているのが本作の油断できないところだろう。