『カムカムエヴリバディ』感動と愛に満ちた奇跡の15分 「I hate you」から「I love you 」へ

 「この場所ではいつも奇跡が起きる」と言う錠一郎。彼が昔アルバム制作で録音していた「サニーサイド」のトランペットの録音を探し出し、使うという粋なことをしてくれたトミー(早乙女太一)。彼は本当に、いつも錠一郎のためなら何でもやってきた。そして、その音色にいち早く気づく「Night and Day」の支配人・木暮洋輔(近藤芳正)。それを昔のように、カウンターにもたれて聞くベリー(市川実日子)がいる。そしてこの場所は安子にとっても、のちに再婚したロバート(村雨辰剛)との出会いの場だった。るいと安子の歴史が、この一つの空間で融合しているのだ。そんな2人を導いてきて、見守るひなた。

 それから年が明け、安子と勇(目黒祐樹)があの神社を歩いていた。『サムライ・ベースボール』は日米ともに大ヒット。そのことで安子が一番嬉しいのは、かつての稔の夢が叶ったことである。

「どこの国とも自由に行き来できる。どこの国の音楽でも自由に聞ける。自由に演奏できる。僕らの子供には、そんな世界を生きてほしい。ひなたの道を歩いてほしい」

 今の安子の仕事、キャスティングディレクターは自由に国を行き来し、キャストもまた自由に国を行き来する。錠一郎やトミーの愛するサッチモの音楽は「Dippermouth Blues」で自由にまた聞くことができ、録音のトランペットの音を流したって、音楽の経歴がないるいが歌ったっていい、自由な演奏がクリスマスの奇跡を起こした。『カムカムエヴリバディ』は親子三世代のヒロインの物語を描いてきたと同時に、稔の夢が叶う瞬間を、一つ一つ丁寧に描いた作品でもあるのだ。

「ひなたの道を歩けば、きっと人生は輝くよ」

 安子と稔の朗読する「サニーサイド」の歌詞の背景に映されるのは、日向ではなく木々の木漏れ日。安子の人生も、ひなたから逃げた時もあった。錠一郎のように、トランペットがやっぱり吹けないままで、そこには完璧な“ひなたの道”なんてないかもしれない。しかし、それが人生。それでもいい、歩く意志さえあれば、それがあなたの人生を輝かせる。戦争を生き抜いた安子と、戦争によって命を奪われた稔の言葉は、現在の私たちの心に染み渡るものであった。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか
写真提供=NHK

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