『カムカムエヴリバディ』深津絵里は“愛”と“赦し”のヒロインに るいと共に歩んだ60年

 『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)最終週初日の放送は、2022年から始まった。年老いたるい(深津絵里)が、両親の思い出の場所である「Dippermouth Blues」で錠一郎(オダギリジョー)のために珈琲を淹れている。

 2人が出演するクリスマスフェスティバルは無事に執り行われたのか。るいは安子(上白石萌音)と再会することはできたのか。はやる気持ちはあれど、なにより額の傷をあらわにして穏やかな笑みを浮かべる彼女の姿に思わず涙腺が緩んだ。それはかつて、悲しそうにしか見えないと平助(村田雄浩)が慮った笑顔とは異なる意味を持つ。辛い過去を笑顔で覆い隠していた少女が、喜びも哀しみも織り交ぜの人生を笑顔で慈しむ老婦へ。その長い道のりを一心同体となって歩んできた深津絵里演じるるいは、“愛”と“赦し”のヒロインだった。

「もう自分を責めんといてください。みんな……間違うんです」

 雪衣(多岐川裕美)が病床で長年の後悔を語った第107話。安子への嫉妬から湧き上がったどす黒い感情を、幼いるいにぶつけてしまったことを謝罪する雪衣に赦しを与えたるいの言葉が反響を呼んだ。それは雪衣だけでなく、光を求めて彷徨う暗闇の中では誰かを傷つけずにはいられない私たちの“どうしようもなさ”を肯定し、包み込んでくれているように感じたからだろう。

 るいはここに至るまで、何度も何度も人が間違える瞬間に立ち会ってきた。特に自ら命を絶とうと海に入った錠一郎を、「怖がらんでええ、私が守る。あなたと2人で日向の道を歩きたい」としっかり抱きとめたシーンが印象深い。愛する人に“拒絶”され、一度は暗闇に突き落とされたるいがそこから這い上がることができたのは、他でもない錠一郎が自分の過去をまるごと受け止めてくれたからだ。安子との温かな思い出が宿る「サニーサイド」も、トラウマが植え付けられた額の傷も。間違いだらけと思い、捨てた人生のかけらを、錠一郎は一つひとつ拾い上げてくれた。それも自分の大切な一部だと思わせてくれた。だからるいは同じように錠一郎が下ろしかけた荷物を抱えて、過去と地続きの未来に向かって歩き出したのだ。

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