濱口竜介のスピーチが遮断され、ウィル・スミスは激昂 第94回アカデミー賞で何が起きたのか
2021年に行われた第93回アカデミー賞がコロナ禍による延期、参加者人数の制限、授賞式会場が異例のユニオン駅というイレギュラー続きだったのに対し、第94回アカデミー賞はこれまでに近い日程の3月27日(現地時間)にドルビーシアターで執り行われた。しかし、それでも異例のハプニング続きだったことは確かだ。事前から、8部門(作曲賞、美術賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、編集賞、音響賞、短編映画賞、短編ドキュメンタリー賞、短編アニメーション賞)の受賞結果を生放送で発表しないことに対して、ノミネートされた監督陣を中心に批判の声が上がっていたり、式の最中に暴力沙汰が起きてしまったり。そんな中で、毎年最も注目される作品賞を『コーダ あいのうた』が受賞。同作は作品賞のほか、助演男優賞(トロイ・コッツァー)、脚色賞(シアン・ヘダー)の計3部門にノミネートされており、その全てで受賞を果たした。
最多受賞を果たしたのは、撮影賞を含む6賞で『DUNE/デューン 砂の惑星』。意外にも作品賞にノミネートされた注目作がそれぞれ1賞取ったか取らなかったかという結果に。そのなかで、国際長編映画賞を濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が受賞した。
濱口竜介監督のスピーチが遮られた?
受賞した『ドライブ・マイ・カー』からは濱口監督がオスカー像を受け取りに登壇し、通訳をつけながらも自身で英語を使った関係者への賛辞を述べていた。しかし、濱口監督が最初の賛辞に一息ついたところを、トラヴィス・バーカーによるドラムがすかさず流れはじめ彼の言葉を遮る。彼がまだ話しているのにそれが続くので、本人が「まだ少し良いですか」と制し、日本語でキャスト陣への感謝を語った。そしてようやく、スピーチ本題に差し掛かると思いきや、また一息ついたところで勝手にドラムが流れはじめ、今度はプレゼンターのティファニー・ハディッシュが監督の背中に手を当てて退場を促す事態が発生。
もともと授賞式では、受賞者のスピーチ持ち時間が決められているものの、第94回に関してはかなりバラつきがあるように思えた。なにより、これまでも長く話しすぎている際はまず最初に終わりを促すBGMが流れるようになっている。それに受賞者が気づき、自分で「話しすぎた」と切り上げるもので、『クルエラ』で衣装デザイン賞を受賞したジェニー・ビーヴァンのスピーチでまさにその対応がされていたものだ。にもかかわらず、濱口監督に同じような対応がされなかったどころか、明らかにスピーチをしきっていないことから「(濱口監督の)スピーチを遮っておいて、二度とアカデミー賞は“多様性”なんて言葉を口にするな」など、ネット上では批判の声があがっている。世界最大の放送局として知られるアメリカのABCも、SNSで批判的な反応をみせた。
ウィル・スミスがクリス・ロックに激昂
一番のハイライトとも言える“事件”が、ウィル・スミスがプレゼンターのクリス・ロックに平手打ちをしたことだ。ロックが登壇した際、ウィル・スミスの妻ジェイダ・ピンケット・スミスのベリーショートヘアを「『G.I.ジェーン』続編に出たら?」と揶揄ったことで、ウィル・スミスが激昂。これはジェイダが長年脱毛症に悩んだ末に、あの髪型を選択していたからである。そして、『G.I.ジェーン』はヒロインが特殊部隊に入るも女性だという理由でいじめられたことで、男に負けないようスキンヘッドになって訓練に挑んだ。ウィル・スミスはステージまで歩いていくとロックの顔面を本気でビンタし、席に戻って放送禁止ワードを用いながら「keep my wife's name out of your f***ing mouth(俺の妻の名前を口にするな)」となじった。この事態にロックも呆然とし、しばし無言となる放送事故が発生。授賞式での暴力沙汰は史上初の出来事だった。
その後、スミスはノミネートされていた主演男優賞(『ドリームプラン』)を受賞。その際のスピーチでは泣きながらウィリアムズ家への謝礼と、先の自分の行いに対し友のデンゼル・ワシントンから「最高の瞬間に悪魔は囁く。その誘いに負けてはならない」という助言をもらったことを明かしながら、涙を流し謝罪する場面も。今回の騒動に関して、英語圏のTwitterからは暴力という手段をとったスミスへの否定的な意見が多く、平手打ちをされたにもかかわらずそのまま平静に進行を務めたロックを賞賛する声が多く見られたが、日本は逆にスミスの行動へ理解を示す声が多くあがっている。
アカデミー賞はすぐに公式SNSにて「アカデミーはいかなる形態の暴力も容認しません」と声明を出しているが、そのリプライには「暴力を振るった人間を退場させないどころか、受賞させたことは暴力の容認である」という痛烈な批判も。気になるのは受賞式に参加していた俳優陣の反応だが、騒動のあとには同じく主演男優賞にノミネートされていたブラッドリー・クーパーやワシントン、そしてタイラー・ペリーが彼に声をかけていた。そして『tick, tick... BOOM!:チック、チック…ブーン!』に出演したMJ・ロドリゲスはその後のVariety誌へのインタビューで「人はときどき感情的になります。人と人の間に相互作用が生まれることもあります。そういう瞬間だけに基づいて人を判断することはできません」と擁護的な意見を述べていた。