『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介監督の稀有な“客観力” 過去作の宣伝担当に聞くその人柄

 この数カ月で世界で最も知られることになった日本人映画監督と思われる濱口竜介。『ドライブ・マイ・カー』が第94回アカデミー賞に作品賞ほか4部門でノミネートされたほか、世界各国でその監督作が高く評価されている。受賞を受けてのスピーチや、インタビュー、トークショーなどでもその聡明な語り口が魅力であり、人を安心させるような不思議な包容力がある。濱口監督の東北記録映画3部作(2011年~2013年)、『ハッピーアワー』(2015年)などの宣伝を担当した佐々木瑠郁氏は、「濱口監督と一緒に仕事をした人はみんな大好きになる」とその人柄を語る。

濱口竜介監督

「初めてお会いしたときから、現在まで本当に“感謝”を大事にされている方だという印象があります。現在、たくさんの映画祭で受賞をされていて、その度に監督の受賞コメントがありますが、受賞の喜びよりも、出演者・スタッフへの賛辞と感謝で埋め尽くされているんですよね。それと同じように、表には出てこないプロデューサーや、配給・宣伝スタッフに対しても、お会いする度に感謝を口にしてくれるのです。1日の取材が終わった後には、『今日も1日ありがとうございました』『たくさん取材を入れてくれてありがとうございました』『皆さん疲れていませんか?』と一番疲れているのは監督のはずなのに、周囲への気遣いを欠かさないんです。だから、濱口監督のためにもっと頑張りたい、もう一度仕事をしたいと一緒に仕事をした人は誰もが思えるのではないでしょうか。求心力のある方だと思います。初めてお会いしたのは10年ほど前ですが、現在までその印象はまったく変わらないです」

 そして、濱口監督との仕事を通して、監督としての揺るぎない姿勢と“客観力”に驚かされたと佐々木氏は続ける。

『ハッピーアワー』(c)2015 神戸ワークショップシネマプロジェクト

「私はフリーランスの宣伝ということもあり、一緒にお仕事をする監督とは二人三脚のような形でやっていくことが多いんです。なので、最初の打ち合わせでは、どう作品の魅力を伝えていくべきかとことん話し合わないといけないと思っていたのですが、濱口さんは『自分は作品を作る側なので、宣伝のことは自由にやってください』と。アートワークやキャッチコピーに関しても、任せていただきました。そんな濱口さんから唯一ご意見をいただいたのが、作品出演者の方に触れるコメントを寄せられたときです。そのコメントを私は魅力的に感じチラシに掲載したいと考えたのですが、世の中に発表された時にどう受け取られるかは分からないので控えたいと。どんなときも言葉と真摯に向き合い、役者、およびスタッフの方々を守ろうとする姿勢をく感じました。『不気味なものの肌に触れる』(2013年)のときは、予告編・キャッチコピーもご自身で作っていました。作品の本質を伝えることと、作品を宣伝することは似ているようで違う部分もあり、作り手の方が宣伝に関することを行うとうまくいかないときもありはするんです。でも、先のエピソードからもわかるように、どう見られるか、また、どう見せるかという感覚やご判断が、当然ですが非常に適格だと感じました。ほかにも、どんな媒体さんの取材にも平等に応えながらも、それぞれの媒体でどんな見え方をされるのか、どんな答え方がその媒体には一番適しているかなども考えられているように思います。また、必要なものと不必要なものの判断が非常に明確な方です。自分にとっても、一緒に仕事をしてくれる相手にとっても、最良の形が何かを考えていらっしゃる部分は近くにいてとても勉強になりますし、尊敬しています。」

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