『ファイトソング』は清原果耶の個性が活かされたドラマに 平熱だからこそ染みるやりとり

 実は花枝は手術を控えており、手術の結果によっては耳が聴こえなくなると医師から言われていた。そのため「思い出づくり」として春樹の提案を受け入れたのだ。

 その後、2人は恋愛感情がない状態で、恋人の真似事をすることになっていくのだが、他人行儀な距離感でデートを繰り返しながら「恋愛」について2人で学んでいく過程はとても微笑ましかった。同時に感じたのが、盛り上がり過ぎないからこそ染みる平熱のやりとり。

 清原の俳優としての魅力は、あまり笑顔を見せないところにある。これは「暗い」という意味ではない。「陰キャ」という括りで清原について触れたネットニュースを何度か目にしたことがあるが、彼女の個性は「暗い」と言うよりは「冷静」で「理知的」と言う方がしっくりくる。

 彼女の芝居は必要以上にはしゃがない。そのため独特のトーンの演技に見えるが、それは他の俳優の演技の方がオーバーリアクションだからであり、むしろ清原の落ち着いたトーンの方がふつうの人の感覚に近い。

 春樹を演じる間宮祥太朗の演技についても同じことが言える。平熱の2人が不器用な振る舞いで恋愛に取り組む姿には独自のユーモアがあった。この平熱の落ち着いたトーンがあったからこそ、激情によって求め合う恋愛ではなく、お互いのことをいたわりながら淡々と思いを深めていく理知的な恋愛を描くことに成功している。

 第8話。2人の関係が終わる最後の日。「別れたくない」と言う春樹に「恋に負けるのは嫌です。恋に引きずられたり、恋に引っ張られて何か変えたりするのも嫌です」と花枝は言う。疑似恋愛を貫徹することは花枝と春樹にとって苦しい現実を乗り越えるための重要な儀式だった。だからこそ花枝は感情に流されて約束を反故にしたくなかったのだ。

 2年後。2人が再会し、紆余曲折の末に結ばれたのは、困難を乗り越えて2人が成長できたからだろう。清原果耶が主演だからこそ生まれた、『ファイトソング』は理知的な恋愛ドラマである。

■配信情報
火曜ドラマ『ファイトソング』
Paraviにて配信中
出演:清原果耶、間宮祥太朗、菊池風磨、東啓介、藤原さくら、若林時英、窪塚愛流、莉子栗山千明、石田ひかり、橋本じゅん、戸次重幸、 稲森いずみ
脚本:岡田惠和
演出:岡本伸吾、石井康晴、村尾嘉昭
プロデューサー:武田梓、岩崎愛奈
音楽:大間々昂
主題歌:Perfume 「Flow」 (UNIVERSAL MUSIC)
編成:宮崎真佐子、中西真央
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/fight_song_tbs2022/
公式Twitter:@fightsong_tbs
公式Instagram:fightsong_tbs

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