『キム秘書』からの見事なアップデート 韓国ドラマ『社内お見合い』人気の秘密

『キム秘書』から進化した『社内お見合い』

 『キム秘書はいったい、なぜ?』(2018年)は近年、韓国ドラマにハマった人にとってオフィスを舞台にした韓流ロマンティック・コメディの代名詞的作品だ。いまやマーベル俳優となったパク・ソジュンと『気象庁の人々:社内恋愛は予測不能?!』に出演中のパク・ミニョンが共演、ツンデレで自己愛の強い財閥御曹司の副社長と彼を支える敏腕秘書が繰り広げる恋の駆け引きロマンスは、根強い人気を誇っている。

 そして同じように大ヒットウェブトゥーンの実写化であり、この『キム秘書はいったい、なぜ?』を彷彿とさせるのが、2月28日よりNetflix配信されている『社内お見合い』。日本では連日の「今日のTOP10」入り、本国での視聴率も右肩上がりを続け(※1)、BTSのジョングクも一気見したという(※2)今作の魅力を探ってみた。

※本稿は『社内お見合い』第6話までの内容に触れています。

『社内お見合い』は王道のロマコメなのか?

 原作は、総視聴回数3億2,000万回を越える同名ウェブ小説とウェブトゥーン。脚本を、韓国の長寿ドラマ『ブッとび!ヨンエさん』(日本配信タイトルは『生意気なヨンエさん』)を手がけた人気脚本家ハン・ソルヒとホン・ボヒが担当、『あやしいパートナー』『油っこいロマンス』のパク・ソンホが監督を務めている。ハン・ソルヒは近著『あたしだけ何も起こらない “その年”になったあなたに捧げる日常共感書』が日本でも発売されている。

 キャストには医療ドラマ『浪漫ドクター キム・サブ2』、ファンタジーロマンス時代劇『ホン・チョンギ』で人気上昇中のアン・ヒョソプ、ガールズグループ「gugudan」出身で俳優として『恋するレモネード』や『悪霊狩猟団:カウンターズ』などに出演してきたキム・セジョンが共演、フレッシュなケミストリーを見せている。

 主人公のシン・ハリ(キム・セジョン)はある日、財閥のひとり娘である親友チン・ヨンソ(ソル・イナ)に頼まれ、彼女の代わりにお見合いに出向く。派手で生意気な女性を装い、破談に持ち込もうとするが、そのお見合い相手はなんと彼女の会社のCEO、カン・テム(アン・ヒョソプ)で、立場を越えた恋が始まる……という設定。

 カン・テムは大手食品企業「GOフード」創業者の孫でハーバード大を主席で卒業、「何でもできてしまうこと」が短所という完璧なスペックとビジュアルの持ち主。だが、これまで出会ったことのない自由奔放なヨンソ(ハリが装った)にすっかりペースを狂わされ、その正体が食品開発チーム社員のシン・ハリと分かってから本当に好きになってしまう。

 今作の冒頭、このアン・ヒョソプ演じるテムがアメリカから帰国してくるシーンが秀逸だ。原作そのままのアニメーションで始まり、ごく自然に実写のアン・ヒョソプへと切り替わっていく。パク・ソジュンはもちろん、ソン・ガンやチャ・ウヌでも話題の、まさに“漫画から飛び出してきたような秀麗な男性”=マッチンナムを初登場シーンから見事に体現してみせている。髪を下ろしたオフのときの柔らかさのギャップ、料理や掃除でストレス解消する潔癖な性格、ハリに対してはどんな完璧な計画も通用しなくなる、どこか情けない部分は見守りたくなる要素。さらに第6話では、同じくパク・ソジュン主演の『彼女はキレイだった』を思わせるトラウマを抱えている様子も描かれた。

 一方のハリは、以前にもヨンソのお見合い相手を撃沈させたことがある。教育ローンや様々な借金の返済に充てるべく報酬をもらうための、いわばアルバイトのようなものだ。そんなムダな演技力(?)に長けたハリも普段は、チキン店を営む賑やかな母と優しい父、口の減らない弟との実家暮らし。大学で食品調理学を専攻し、「GOフード」で商品開発を行っている。

 『キム秘書はいったい、なぜ?』では、キム秘書ことキム・ミソが副社長イ・ヨンジュンのために自分の時間を費やすことに疑問を持ち退職を決意するが、『社内お見合い』のハリは自分の仕事に誇りを持ち、ヒット食品を生み出したり、最年少で表彰されたりする有能な社員。裕福ではないものの、誰もが望んでいる“好きを仕事にする”夢を叶えた女性だ。テムに自分の正体がバレたときも、真っ先に心配したのは大好きな食にまつわる仕事を解雇されることだった。テムに向かって「定年まで私の才能にストローをさして吸い続けてください」と自らプレゼンしたように、努力してきた自分を認め、その能力を自負している。

 明るく前向きな、チキン店を営む両親の影響もあるだろう。ハリが家族総出でチキンの宅配BOXを組み立てるシーンは『パラサイト 半地下の家族』の内職を彷彿とさせるが、悲哀よりも笑いが先に立つ。長男の弟ハミン(チェ・ビョンチャン/VICTON)がサッカー、アイドル、勉強と“挫折”してきた日々を「折るのは得意」と自虐的に話す場面もある。こうした各世代の痛みを敏感にとらえて描く韓国ドラマには、それを癒すための“食”のシーンも欠かせない。

 とはいえ、恋愛に関しては、レストランのオーナーシェフである男友達のイ・ミヌ(ソン・ウォンソク)に7年間も片想いを続けているハリ。ミヌの腕を見込んで新商品開発のためにタッグを組むが、ミヌが元彼女とヨリを戻したことを知り、激しく落ち込む。そんなとき、カン・テムの意外な一面を知り、少しずつときめいていくのだ。

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