『ニトラム/NITRAM』新場面写真15点公開 山岸凉子、黒沢清ら著名人のコメントも

 3月25日公開のケイレブ・ランドリー・ジョーンズ主演映画『ニトラム/NITRAM』の新場面写真が公開された。

 本作は、1996年4月28日、オーストラリアの世界遺産でもある観光地ポート・アーサー流刑場跡で起こった無差別銃乱射事件の犯人の半生を描いたサスペンス。第11回オーストラリア・アカデミー賞では作品賞・監督賞・脚本賞ほか主要8部門で最多受賞を果たした。

 本作で描かれるのは、事件当日に至るまでの犯人の日常と生活。舞台は、90年代半ばのオーストラリア・タスマニア島。かつて囚人の流刑地だった、観光しか主な産業がない閉塞したコミュニティに暮らす青年が、いかにして同国史上最多の被害者を出した銃乱射事件の犯人となったのか、その不可解な半生が描かれる。

 公開された場面写真には、犯人“ニトラム”を演じたジョーンズのさまざまな表情が切り取られている。

 ジョーンズは本作に出演するにあたって、ジャスティン・カーゼル監督の指導のもと、90年代当時のオーストラリアの映画やTV、音楽を膨大に視聴し、オーストラリア訛りの英語を口の動きから習得。さらに体重も数十キロ増量するなど、徹底的な役作りに励んだ。そして、カンヌ国際映画祭、シッチェス・カタロニア映画祭、オーストラリア・アカデミー賞ほかで主演男優賞を受賞した。

 そして、本作のパンフレットの販売も決定。計60ページのオールカラーで、作家の町田康、公認心理士・臨床心理士の信田さよ子、ライターの磯部涼、哲学者の小泉義之による『ニトラム』論のほか、カーゼル監督、脚本のショーン・グラントら製作陣によるステートメント、インタビューなどが掲載される。デザインは、銀杏BOYZやcero、雑誌『STUDIO VOICE』等のアートディレクターを務めてきた坂脇慶が手がけた。

 また、公開2日目の3月26日には、新宿シネマカリテで、映画監督の黒沢清と爆音映画祭主宰、映画評論家の樋口泰人によるトークショーも決定。

 あわせて、黒沢監督、映画監督の石井裕也、豊田利晃のほか、『日出処の天子』や『舞姫 テレプシコーラ』、『レベレーション(啓示)』で知られる漫画家・山岸凉子ら11名からコメントが寄せられた。

コメント

山岸凉子(漫画家)

最初の10分(いや5分か)で引き込まれる。
決して認められない結末だけれど、彼の気持ちが食い込む。

黒沢清(映画監督)

あらゆる愛情を踏みにじるこの男が、世界のどこかに実在していたと考えるだけで嫌になる。いったいどうすればよかったのか。答えはない。実に過酷な映画体験だった。

石井裕也(映画監督)

この殺人犯は悪魔ではない。僕たちとはきっと些細な違いしかない。それが現実だと思う。

尾崎世界観 (クリープハイプ)

開始早々、これは危険だと思い、観るのをやめようとした。でも主人公の視点にがっちりと固定されて、もう身動きが取れなかった。この、映画に"捕まる"という感覚は初めてだったし、捕まって本当に良かった。

藤野可織(小説家)

手渡されなければならなかったものを手渡されることのなかったひとつの家族。その息子と母親と父親のそれぞれの物語が、からみあい、ばらばらになってただここに落ちている。
花火の煙、草地、海と、それらの前でどうしようもなく息をしている主人公の小さくて大きな肉体を、私は忘れることができない。

小島秀夫(ゲームクリエイター)

監督のジャスティ・カーゼル は 『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』以上に大口径な写実を、主演の ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ は 『アンチヴァイラル』の時よりも破滅的な暴発感をもたらした! ニトラムを無差別銃乱射事件へと駆り立てたものは何だったのか? この映画の”装填”が完璧であればある程、犯行の爆発は現実の銃社会に覆い隠されてしまう。

豊田利晃(映画監督)

観客を選ぶ映画だが、僕は救われたような気がした。

赤江珠緒(フリーアナウンサー)

理解できない事件を起こした犯人の母の思考は意外にも、理解できる。
幸せになって欲しい、、こうなって欲しい、、。
親は願う。ただ時にそれは、その子の今に100%満足と思っていないのと同義になるのかもしれない。
子供は未完だ。でも成長して100%に近づく存在でなく、未完の今も明日も既に100%のまま成長する存在だと肝に銘じようと思わされた。
とても力を持った映画だ。

金原瑞人(翻訳家)

事件とは何か、社会とは何か、狂気とは何か、人間とは何か。
ニュース報道では絶対にわからない、映画でしか捉えられない「現実」がここにはある。

磯部涼(ライター)

『ニトラム』は謎の多いポートアーサー・マサカーの真相を解き明かすというよりは、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズの、ひとりの人間の複雑で不可解な生がごろんとそこにあるかのような演技に象徴される通り、我々を惨劇へと至る過程にただただ立ち会わせる。
だからこそこの映画を観た者は、誰もが事件と無関係でいられなくなる。

落合宏理(ファッションデザイナー)

だだ、絶望的な気持ちを抱えて生活する中で、愛される事と愛する事との感情が彼にとっての答えとして銃の乱射と結びける事には理解できませんでした。
ただケイレブ・ランドリー・ジョーンズ演じるニトラムの悲しい表情に僕の中にもある孤独が反応しました。

■公開情報
『ニトラム/NITRAM』
3月25日(金)全国公開
出演:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ジュディ・デイヴィス、エッシー・デイヴィス、ショーン・キーナンほか
監督:ジャスティン・カーゼル
脚本:ショーン・グラント
配給:セテラ・インターナショナル
2021年/オーストラリア/英語/ヴィスタ/110 分/原題:NITRAM/日本語字幕:金関いな
(c)2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited

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