『妻、小学生になる。』愛を求めて振り回される吉田羊 大人になりきれない登場人物たち

 だが、そんな千嘉自身が知らなかったとはいえ、広樹の家庭にとって浮気相手になってしまっていた、のはなんとも皮肉だ。失ってしまった“愛に溢れた家族の風景”を求めて振り回されている千嘉は、貴恵が戻って来る前のソンビのようだった圭介と同じなのかもしれない。

 たったひとつの愛が欲しくて、その愛に応えたくて。圭介も千嘉も、もがいている。「その愛を子どもにしっかりと向けるべきだ」というのは、もしかしたら外野だからこそ言える綺麗ごとなのかもしれない。貴恵のように自ら光を照らすような強く靭やかな人もいる。その一方で、圭介や千嘉のように誰かの光があってこそ生きられるような人も。愛を見失い、寂しくて、辛くて、さまよってしまうものなのではないだろうか。

 貴恵の弟・友利(神木隆之介)も、さまよえる大人の1人だ。貴恵のように叱咤する万理華の出現により漫画のネームを描き、出版社へと持ち込みをするが「この10年何もしてこなかったことがわかった」と冷たく突き返されてしまう。

 ファンタジーな現象と対になって描かれる、不器用な大人たち。きっと大人はどこかで知っている。人生は「奇跡が起きました、めでたしめでたし」では終わらず、うまくいったと思ったら、突然よくないことも起こって、そんなアップダウンが非情にも続いていくということ、を。

 だから、「もしそんなことが起こったらどうします?」と、“生まれ変わり”をテーマに小説を書く不思議な中学生・出雲凜音(當真あみ)から問われたときも、友利は「起きない。絶対に。何度も夢に見て、夢だったから」と答えるのだ。万理華の言動に、貴恵の生まれ変わりがよぎったにも関わらず、まだ信じることはできないから。

 奇跡を信じて、客観視できなくなっている圭介。奇跡をまだ知らず、愛を求めて振り回される千嘉。奇跡を信じたくなくて、現実から目を背けている友利……。人は日々の生活で起こる様々な現象から、その意味を見出して生きていく。“生まれ変わり”とはいかないまでも、運命的な出会いや家族が増えるなど、奇跡のような出来事を実際に経験しているのだ。

 そんな奇跡をきっかけに、自分の人生をどう舵取りしていくのか。それを見つけていくのが“大人になる”ということなのではないか。もしかしたら彼らは、万理華(貴恵)を中心に起こった奇跡を飲み込むには、まだ大人になりきれていないのかもしれない。

■放送情報
金曜ドラマ『妻、小学生になる。』
TBS系にて毎週金曜22:00~22:54
出演:堤真一、石田ゆり子、蒔田彩珠、森田望智、毎田暖乃、柳家喬太郎、飯塚悟志(東京03)、馬場徹、田中俊介、水谷果穂、杉野遥亮、小椋梨央、吉田羊
原作:村田椰融『妻、小学生になる。』(芳文社『週刊漫画 TIMES』連載中)
脚本:大島里美
プロデュース: 中井芳彦、益田千愛
演出:坪井敏雄、山本剛義、大内舞子、加藤尚樹
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/tsuma_sho_tbs/
公式Twitter:@tsumasho_TBS

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