『ゴーストバスターズ／アフターライフ』と2016年のリブート版を比較考察
後味が悪いと感じられるのは、2016年版が興行的な成功を収められなかったことで、本作があたかも正統的な「真のシリーズ」として提出し直されているように見えてしまうことだ。じつは2016年版は、主にインターネット上で、主要キャストが女性に変更されるという試みが過去シリーズの一部ファンの怒りを買って、バッシングを受けた経緯があるのだ。その結果、あるキャストは人種差別や女性差別的な言葉を大勢から不当にぶつけられるという被害に遭うことになったり、作品の評判を意図的に下げるためYouTubeの予告に集団で「低評価」をつける呼びかけがされるなど、異様な事態に発展したのである。
このように女性憎悪と見られる嫌がらせ行為は、『スター・ウォーズ／最後のジェダイ』（2017年）や『キャプテン・マーベル』（2019年）など、女性の活躍が強調された作品でも同様に発生している。それが少なからず2016年版『ゴーストバスターズ』の興行成績に影響を及ぼしてしまったとはいえ、本作が一連の反応を分かった上で「真のシリーズ」として提出し直されていることが、一部の観客による女性憎悪の嫌がらせに屈しているような姿勢に見えなくもない状況が生まれてしまったのである。
もちろん、本作がそのような意図で撮られたものでないことは明白だ。そもそも本作の主人公も女性であり、ジェイソン・ライトマン監督は近年、女性にばかり育児や家事の負担が大きいことを問題として描いた『タリーと私の秘密の時間』（2018年）や、リベラルな政治家がプライベートなスキャンダルで地位を失墜しやすいという問題を扱った『フロントランナー』（2018年）など社会的、政治的に、多様性の尊重の側にまわる、メッセージ性の強い監督作を手がけてきているのである。そんなジェイソン・ライトマン監督が、一部の女性憎悪に同調した作品づくりをするわけがない。
とはいえ、全く異なるアプローチで撮られた本作の存在が、2016年版の興行的な失敗だと考えていてシリーズをやり直したがっていると、表面的に見えてしまっていることは確かだ。それが、本作の懐古的な雰囲気とあいまって、時代を逆行させるような取り組みに感じさせてしまう印象を発生させているのである。その意味では、もし本作がシリーズ化されるならば、そういった雰囲気を払拭するために、例えば今後、異なる世界観の2016年版と本作の設定を、接続させるような試みがあってもよいのかもしれない。
だが、そもそも本作がシリーズ化されるような内容だったのかは疑問である。なぜなら本作の物語は、それ自体がオリジナル版に大きく依拠したものであり、前述したような異質なアプローチをとっているからだ。このような試みのままシリーズ化されていくビジョンが、なかなか見えてこないのである。コメディー俳優を配した2016年版に比べると、マッケナ・グレイスなどの主要キャストを継続して登場させる必然性も、あまりないのではないだろうか。
そう考えると、今後2016年版と関係なく『ゴーストバスターズ』を映画にするのであれば、少なくとも一からまたコンセプトを組み直す必要が出てくるはずだ。もともと2作品しかなかったシリーズを、新たな作品で懐古し続けるというのは、おかしな話ではないだろうか。
一方で、近年映画界を賑わせてきた、80年代リスペクトとしての本作の懐古主義的な在り方は、劇中で地元の子どもたちが80年代ホラー映画を一方的に鑑賞させられるシーンが暗示しているように、本作自身が自覚的で批評的な視点を与えてもいる。80年代に子ども時代を過ごした親が、自分の子を連れて本作を観にくることは、子どもにとっては、まさに劇中の構図そのものではないか。この自作を笑うようなシニカルさや俯瞰的な知性があるという点については、さすが『ヤング≒アダルト』（2011年）を撮りあげたジェイソン・ライトマン監督の仕事というところだろう。
■公開情報
『ゴーストバスターズ／アフターライフ』
全国公開中
監督：ジェイソン・ライトマン
脚本：ギル・キーナン、ジェイソン・ライトマン
製作：アイヴァン・ライトマン
出演：マッケナ・グレイス、ポール・ラッド、フィン・ヴォルフハルト、キャリー・クーン、ローガン・キム、セレステ・オコナー
日本語版吹替声優：上白石萌歌、高山みなみ、朴ロ美、梶裕貴、木内秀信、日笠陽子
配給：ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
原題：Ghostbusters: Afterlife
公式サイト：https://www.ghostbusters.jp/
公式Twitter：https://twitter.com/Ghostbusters_JP
公式Instagram：https://www.instagram.com/ghostbusters_jp/
