Netflixお馴染み俳優が集結 SFドラマ『静かなる海』3つのミステリーに着目

3つのミステリー要素に着目

 まずは、パレ基地のミステリーに触れたい。パレ基地は放射能漏れで閉鎖されたと政府は発表していたが、放射能によるものではなかった。隊員たちは任務に不信感を募り始め、未確認生体信号が確認されるなど状況はさらに混乱を招く。巨大な基地の構造は複雑で、地図に記されていない箇所もあり、隊員たちは常にモニターを確認しながら進むため、誰もが把握できない状態から高まる緊張感を体感できる。それから、CG映像で映される月は不気味さが漂い、月面移動時に呼吸音だけが響き渡る演出は、息苦しさや緊迫した様子がリアルに感じられる。

 続いては、隊員が次々と死んでしまう事件。隊員以外の何者かに一瞬にして殺されてしまった者、突然多量の水を吐き出して息を引き取る者......。犯人がわからない上にスパイが潜入していたことも明かになる。未知の空間で自分の命がいつ、どこで、誰に狙われるかわからない窮地に立たされると、一人ひとりの死を悲しむ余裕はない。そんな中、仲間を救えなかった思いをあらわにするチームドクターのホン・ガヨン(キム・ソニョン)、弟の死を目の前にするチーム長コン・スヒョク(イ・ムセン)、過去の恐怖に縛られ続けている国防部のエリート出身首席エンジニア、リュ・テソク(イ・ジュン)からは、人間らしい感情的な面が垣間見える。

 一方、サンプル回収を優先する捜査隊長ハン・ユンジェ(コン・ユ)と対立しながら事故の真相を究明するのにこだわる元宇宙生物学者ソン・ジアン(ペ・ドゥナ)。彼には任務を成功させて病気の娘を助ける目的があり、彼女には科学者として基地に派遣されて亡くなった姉が遺したメッセージの意味を解明する目的がある。ミステリー要素は多いが、キャラクターについては主にこの2人しか深掘りされていないため、関係図はシンプルに整理しながら進めていくことができる。

 そして、未確認正体信号の正体であるルナという名の少女。人間離れした身体能力を持っているが、見た目は普通の女の子と変わりない。一切の言葉を発さず、行動や眼差しで訴える彼女は、野性的でありどこか神秘的でもある。そんなルナ役を務めるのはキム・シア。『キングダム:アシンの物語』(2021年)でアシンの幼少期を演じていたことが思い出される。この少女がジアンの姉が残したメッセージだったのだが、不可解な点が多く残った。

キーワードは「水」

 本作のキーワードは「水」だ。命を救うはずの水が、命を奪う皮肉な話である。多くの先進国が月面に資源を求めて失敗に終わる中、ジウンの姉が“月の水(以下、ウォルス)”を発見する。チェ局長(キル・へヨン)とSAA(韓国宇宙航空局)は、パレ基地でウォルスの研究を進めさせるが、その最中に事故が起きてしまったのだ。ところが、ウォルスは血液と反応して無限に水を増殖させる恐ろしいウィルスで、大量に残された死体の死因はウィルスによる溺死だったのだ。隊員初の感染者コン・スチャン(チョン・スンウォン)が口から大量の水を吐いたシーンは、なかなかの衝撃だった。暗い水中にゆっくりと沈んで死んでいく描写と生きている者たちには湧き出した膨大な水が押し寄せる切迫感と迫力。あんなにも求めていた水が希望ではなく呪いになってしまう対比が描かれている。また、感染症、環境問題、格差社会、利権争いなどを組み込んだ韓国ドラマらしい仕上がりになっている。

残された多くの謎

 スパイを送った莫大な資源マフィア(RX)の存在が全く明かされていないが、第3者にサンプルを渡すことを恐れていたチェ局長は常に疑わしく、個人的にユンジェと連絡を取っていたキム課長(ホ・ソンテ)のどちらかが裏組織に属している可能性も考えられる。チェ局長の机には5年経った今も全く変わらない姿のルナの写真が飾ってあり、奇妙なことばかりだ。結局、隠蔽された事故の始まりは何だったのかは不明である。伏線が回収されないまま消化しきれなれていない部分もあるが、シーズン2を前提とすれば納得がいかないわけではない(※シーズン2の制作は未定)。本作が月に一歩踏み出し、新たなジャンルを開拓したことで、更なる韓国コンテンツの飛躍になるよう期待したい。

■配信情報
Netflixオリジナル『静かなる海』
Netflixにて独占配信中
監督:チェ・ハンヨン
出演:ぺ・ドゥナ、コン・ユ、イ・ジュン

関連記事