『呪術廻戦』乙骨憂太と虎杖悠仁は成長の仕方が逆? 物語における2人の主人公を考える

『呪術廻戦』2人の主人公の相違とは

 ただ、「自己犠牲」においても細かく見ていくと、乙骨と虎杖の根本的な考えは違う。夏油との戦いが終わった後、駆け寄ってきた仲間に「そうそう、里香ちゃんと約束したんだよね」となんの迷いもなく話す、自分の死を厭わなかった乙骨に対し、虎杖はいつも自分が誰かを守るために前には出るが“死にたいわけではない”。その心情が特に現れていたのが先述の少年院でのこと。まだ呪術師になりたてなのもあるが、特級からの攻撃を受けて彼は「嫌だ!! もう嫌だ!!  死にたくない!!」と、死に対して明らかに恐怖を持つ。つまり、彼は誰かを助ける前提はあれど、それに伴って「自分は死んでもいい」という気持ちは希薄なように思える。

 この考えは、伏黒が五条悟に言われていた「死んで勝つと死んでも勝つの違い」に繋がっているように感じる。五条はこの時、自分と虎杖を後者に当てはめて説明していたが、伏黒は言ってしまえば過去の乙骨と同じ前者だ。もし虎杖が自分の死を受け入れるとすれば、それは彼にとってそれが「正しい死」である時だけだ。そんな彼ですら、ある“事変”で心を折られてしまう。しかし、同時にその出来事があったからこそ、なおさら「今は死ねない」と生きることに固執するようになる。乙骨も、仲間との出会いがあったからこそ、里香の呪いを解くという、自分が生きていける方法を見つけようとした。そして解呪後、彼は「自分が死ななければいけない」という理由をなくし、改めて呪術師として歩んでいく。こんなふうに、二人はあらゆる局面で同じような成長を逆転的に遂げているのが印象深いのである。

最初から強い主人公と、強くなっていく主人公としての違い

 考えてみると、二人は肉体的な成長と精神的な成長の順が逆だ。虎杖は精神的な成長の後に肉体的な成長がある。一方、乙骨は肉体的な成長のあとに精神的な成長があるのが特徴的だ。これには、もともと虎杖が“最初から強い主人公”で、乙骨が“強くなっていく主人公”だという違いが関係している。

 虎杖の場合、彼はベースにパワーも呪力センスもあったため、特別な努力もせずこれまでの彼の人生における大半の事と同じように、呪術師としても“そこそこできる”ところからスタートした。しかし、吉野順平の一件が彼に著しい精神的な成長を促す。そしてあの彼が初めて「救えなかった」というトラウマ的な経験を経たからこそ、のちの京都姉妹校編での東堂との出会いを通して呪術師としてのパフォーマンスが開花をさせ、黒閃が出せるようになった。ここでフィジカル面がぐっと伸びたのである。

 一方、乙骨の場合、もともとの彼自身に一切のパワーがなく、真希との特訓も含めてフィジカル面の強化から始まった。里香を出さないことを条件にされているため、彼女の呪力を利用しながらも自分が動けないことには呪術師としてフィールドにも立てなかったのだ。そこで、彼は努力と経験を積み重ねてゴリゴリに身体を鍛え上げる。その肉体的な成長の後に訪れたのが、夏油戦での精神的成長なのであった。

 二人とも、相反する主人公像だ。しかし、どこかでやはり共通の課題や考えを持っていたり、逆転的にも同じ成長を遂げていたりする。五条の元で育てられた二人は、未来でまさにお互いの欠けた部分を補い合えるような兄弟弟子としての関係も築けていけるのではないだろうか。

■公開情報
『劇場版 呪術廻戦 0』
全国公開中
声の出演:緒方恵美、花澤香菜、小松未可子、内山昂輝、関智一、中村悠一、櫻井孝宏
原作:『呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校』芥見下々(集英社 ジャンプ コミックス刊)
制作:MAPPA
配給:東宝
(c)2021「劇場版 呪術廻戦 0」製作委員会 (c)芥見下々/集英社
公式サイト:jujutsukaisen-movie.jp
公式Twitter:@animejujutsu

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