『ぎぼむす』SPが2022年に届けた“小さな奇跡” 楽しみになる“また明日”を祈って

 2018年に連続ドラマとして放送された『義母と娘のブルース』(TBS系、以下『ぎぼむす』)には、登場人物および視聴者の間で“小さな奇跡”という合言葉がある。小さな奇跡とは、数字が揃ったり、変なタイプミスだったり、信じられない偶然に驚いたり……と、それに気づくことでちょっと笑えるようなことなら、なんでもいい。

 例えるなら、新たな年を迎えて誰もが「元気で笑顔に過ごせますように」と願う平和な毎日そのものとも言えるかもしれない。そんな1年の幕開けに寄り添うように「2022年謹賀新年スペシャル」として帰ってきた『ぎぼむす』。2020年の新春スペシャルの続編として描かれた本作は、“また明日”が楽しみになる、小さな奇跡を再確認する物語だった。

 亜希子(綾瀬はるか)が、もう二度とくることがないと思っていた亡き夫・良一(竹野内豊)との明日。しかしある日突然、目の前に良一に瓜二つな男・岩城(竹野内豊・二役)が現れる。思わず胸が高なってしまう亜希子だったが、岩城は「ハゲタカ」と呼ばれる外資系ファンドのボス。

 岩城は亜希子が以前コンサルティングを手掛けていた企業を乗っ取った上に、今度は亜希子や娘のみゆき(上白石萌歌)にとってホームとも言えるベーカリー麦田を買収しようと画策。麦田(佐藤健)が作る個性的なパンがSNSでもバズって大人気になったことから、株価下落に悩む大手製パン会社・白百合製パンとの合併を持ちかけるのだった。

 ここまで苦労しながらみんなで盛り上げてきたベーカリー麦田。お金では決して換算できない大事なものを奪われてしまうのではないかとヒヤヒヤする亜希子に対して、麦田は「騙されたっていいじゃないですか!」と相変わらずなのが、微笑ましくももどかしい。

 そんな麦田のノーテンキさに漬け込み、グイグイと計画を進めようとする岩城。さらには亜希子が夫と死別した境遇を知ると、実際は離婚したにもかかわらず自らも妻と死別したという作り話を語るなど、目的のためには手段を選ばない男だった。

 とはいえ、その作り話も全くのウソではなかったのだ。遊園地が好きだった妻との会話。「もし今もいてくれたら」と見ることができなかった家族の風景。そして、別れた妻に重ねた、純粋に企業再生に取り組んでいたころの自分との別れ……。

 真剣に向き合っていたからこそ、うまくいかなかったときの傷は深くなる。一度大きな傷を負ってしまうと、もう二度とそんな経験をしたくないと頑なになってしまう気持ちもわからなくはない。岩城にとって、何事にも真正面からぶつかっていく亜希子は、そんな“もしも”の自分を思い出させる存在だったのだろう。

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