『岸辺露伴は動かない』リアリティを注ぎ込んだ小林靖子の見事な脚本 市川猿之助の怪演も

 露伴は乙の妖怪による邪魔からの初めての徹夜、つまりは漫画と読者を「侮辱(原作では屈辱)」されたことにより、ある場所へと向かう。その途中で衝突するのが、通行人からの視線だ。いかつい男の背中に後ろ向きで張り付いて歩くのは、原作にもあるシーン。事前番組『私の岸辺露伴語り』(NHK総合)の中で、脚本を手掛ける小林靖子は「どう考えたって気づくだろうと思うので、ちょっと自分で横断歩道で人の後ろにくっついてみたんですけど、ぜんぜん気付かれなかったんです。なので成立させられるとは思いました」と話していた。「リアリティ」こそが作品に生命を吹き込むエネルギーであることを、小林自身が証明しているのだ。

 乙の妖怪をあの世へと引っ張っていく原作の「振り向いてはいけない小道」という設定を、日本神話「黄泉比良坂」による神隠しに移し変えた点も非常におもしろいッ。黄泉比良坂とは、生者の住む現世と死者の住む黄泉の国を繋げている坂道。原作では「天国」「地獄」という表現がされているが、この実写でも露伴は「あっち」と「こっち」という言い方でその境界線をチラつかせ、最終的に共通する「坂」──「六壁坂」へと着地させているのだ。元々からある「妖怪」「神話」というキーワードと『ジョジョ』シリーズにも深く通底している「場所」という重要性を違和感なく見事に繋ぎ止めている、小林の作劇に尽きる。「余裕たっぷりのヤツが慌てる姿」に意地悪く高笑いする露伴は「だが断る」に通ずる精神性である。

 昨年に続き、今年もSNSで話題になっているのはエピソードの随所に散りばめられた小ネタだ。第4話、第5話(きっと第6話でも)にファイルーズあいと櫻井孝宏が声役で出演している分かりやすいものもあれば、第4話で橋本陽馬(笠松将)の彼女・ミカ(真凛)のマンションにやってくる配達員の帽子が「SP&W」(「スピードワゴン」もしくは「ソフト&ウェット」)という思わずニヤリとしてしまうネタもある。中でも、筆者が興奮したのは先述したいかつい男の本に、「天気予報は雨。」と書かれており、そこに露伴が「歩きスマホをしない」と書き込むことで、『岸辺露伴は動かない』のエピソードの一つ「月曜日 天気-雨」を表しているというもの。次回のシリーズとの連結に思わず期待を寄せてしまう。

■放送情報
『岸辺露伴は動かない』
NHK総合にて放送
第4話「ザ・ラン」 12月27日(月)22:00~22:49
第5話「背中の正面」 12月28日(火)22:00~22:49
第6話「六壁坂」 12月29日(水)22:00~22:49
(第1~3話:2020年12月放送)
出演:高橋一生、飯豊まりえ
第4話ゲスト:笠松将
第5話ゲスト:市川猿之助
第6話ゲスト:内田理央
第4話:真凛、中村まこと、増田朋弥、小水たいが、濱正悟、春木生
第5話:栄信、渡辺翔
第6話:渡辺大知、中島歩、井上肇、白鳥玉季、吉田奏佑ほか
原作:荒木飛呂彦『岸辺露伴は動かない』
脚本:小林靖子
音楽:菊地成孔
演出:渡辺一貴
人物デザイン監修:柘植伊佐夫
制作統括:鈴木貴靖、土橋圭介、平賀大介
制 作:NHK エンタープライズ
制作・著作:NHK、ピクス
(c)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
(c)NHK・PICS

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