『岸辺露伴は動かない』リアリティを注ぎ込んだ小林靖子の見事な脚本 市川猿之助の怪演も

『岸辺露伴は動かない』小林靖子の見事な脚本

 『岸辺露伴は動かない』(NHK総合)の新シリーズが発表された際、原作ファンの期待をいい意味で裏切っていったのが第5話「背中の正面」だった。なぜなら、これは荒木飛呂彦による『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ(集英社、以下『ジョジョ』)第4部「ダイヤモンドは砕けない」から「チープ・トリック」を元にしたエピソード。つまりは、『岸辺露伴は動かない』シリーズからではない初めてのケースだったからだ(ちなみに、先に公開されていた新ビジュアルでの衣装が「チープ・トリック」で露伴が着ていた服装というのがヒントだった)。

 まず、説明すべきは『岸辺露伴は動かない』シリーズの特徴は、岸辺露伴(高橋一生)が怪異と対峙していくということだ。『ジョジョ』ではスタンド使いとのバトルを繰り広げていく。そこが決定的に違う。ドラマ実写化にあたり『岸辺露伴は動かない』の中では、「スタンド」という概念は「能力」だとか「ギフト」という言葉に言い換えられており、スタンドのビジョンもでてこない。しかし、「チープ・トリック」はスタンド。では、どうやってこのエピソードを『岸辺露伴は動かない』として当てはめるのか。それは「妖怪」としてエピソード自体を再構成しているのである。

 第5話は、リゾート地の企画開発を請け負う会社「エムエスリゾート」の乙雅三(市川猿之助)が露伴邸を訪ねてくる物語。乙は、露伴が漫画のネタのために買い取った山「六壁坂村」をリゾート開発のため買い戻そうとやって来るのだ。この第5話は『ジョジョ』を原作としているため、「吉良吉影」と「六壁坂」とで縦軸が違っており、大きな設定変更も多い。ただ、露伴が乙を本にして書いてあった「私は人に背中を見られるのが嫌だ」「他人に背中を見られてはいけない。絶対にダメだ。理由はない。だが、背中を見られるのは絶対に嫌だ!」というエピソード自体の醍醐味は変わってはいない。

 市川猿之助が演じる乙が、これまた不気味でディ・モールト良い。アニメ版では「そういうものだ」と納得してしまっていた乙が実写になると一気に不穏さを増すのだ。壁を這って移動したり、露伴が出した紅茶のティーカップへと椅子を滑るようにして向かっていく姿はまるで軟体動物のよう。原作での乙は細身のため、正直フォルムはそこまで似てはいないのだが、「ウフフフ……」という笑みの浮かべ方は完全に乙である。極め付けは、原作にもあるブリッジからの階段登り。ブリッジに関しては後に露伴もするはめになるが、インパクトはどうしたって乙の方が上だ。

 そして、露伴は好奇心から乙の背中を見ることで「乙の妖怪」が今度は自分の背中に追い被さることになる。まさか、そのまま高橋一生が市川猿之助をおんぶする形になるなんて。原作でのチープ・トリックは小さなスタンドだったが、大人が大人を背中に担ぐさまはかなり奇妙。妖怪だからこそ成立していることだ。肩への手の置き方、乏しい表情に、顔色の悪さと見事、イメージする妖怪を可視化している。そして原作では「おんぶして」だったのが、「返してッ」に。ここの言い方はアニメでのアクセントを彷彿とさせた。

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