山田杏奈、銀幕デビューから5年でトップランナーに ティーンエイジャーの心情の代弁者?

 主演作『ひらいて』と、ヒロインを務めた『彼女が好きなものは』が公開中の山田杏奈。『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』で銀幕デビューを果たしてからまだたったの5年だが、いまやエンタメ界のエース、早くもトップランナーとなっている。そんな彼女の“疾走ぶり”に迫ってみたい。

 10月下旬より公開中の『ひらいて』で山田が演じているのは、成績優秀で明るい女子高生・愛。しかし、クラスメイトの一人に恋心を抱いてしまったことから、衝動的な行動の数々を繰り広げていくという役どころだ。一方、12月に封切られた『彼女が好きなものは』で演じているのは、BL(ボーイズラブ)をこよなく愛する女子高生・紗枝。本作は彼女が腐女子であることをクラスメイトたちに隠していたものの、ある日クラスメイトの一人・安藤純(神尾楓珠)にバレてしまったことで、日常生活が一変していていくというものである。

『彼女が好きなものは』(c)2021「彼女が好きなものは」製作委員会

 どちらにも共通するのが、女子高生の役であること。とはいうものの、『ひらいて』と『彼女が好きなものは』はまったく異なる作品であるし、演じる役の性格も大きく異る。愛は大胆不敵で、紗枝はどちらかといえば控えめ。共通項をもう少し深堀りするならば、若いがゆえの“自己愛”を両者ともに持っているということがいえる。これがあるからこそ、愛は周囲をアッと驚かせる危険な行動さえものともしないし、紗枝は恋人がゲイであることを知ってうろたえ、自分への愛が嘘のものであったと彼を責め立ててしまう。どちらも一筋縄ではいかないキャラクター。しかし愛も紗枝も、極端な言い方をすれば“等身大”のキャラクターだともいえるのではないだろうか。

 誰もが若い頃、自分本位に振る舞いたい気持ちを抑えていながら、それがふとした瞬間に溢れ出し周囲の者を傷つけた経験があるのではないかと思う。そしてまた、他者からの愛を求め、これに物足りなさを感じるとワガママを言い、相手を傷つけてしまったこともあるだろう。恐らく誰もがこのどちらも身に覚えがあるはず。愛と紗枝の持つ思春期特有のこの部分にスポットが当たっており、山田はリアリティを失わないラインのギリギリのところでパフォーマンスを展開しているように思う。山田杏奈とは、ティーンエイジャーの心情の代弁者だ。

『ひらいて』(c)綿矢りさ・新潮社/「ひらいて」製作委員会

 愛の倒錯的ともいえる行動の数々。笑顔や真顔、一つひとつの表情の下に隠されている彼女の魂胆が私たちは終始気になり、これが『ひらいて』の物語が展開していくための強い推進力になっている。もちろん監督からの指示もあるのだろうが、ちょっとした仕草には愛というキャラクターの芯の部分が垣間見える。山田はセリフばかりに頼らず、愛の仕草だけで作品に緊張感をもたらしているのだ。

『彼女が好きなものは』(c)2021「彼女が好きなものは」製作委員会

 そして紗枝の自己愛は、恐らく多くの観客の共感を呼ぶものだろう。恋人の愛情が自分に向かっていないと思っているのだから、彼女は取り乱してしまって当然である。だが相手の切実な想いに触れたとき、紗枝は大きく変わるのだ。クライマックスには彼女が自身の秘密を大勢の前で明かすシーンが用意されているが、これは特定の誰かとの掛け合いではなく、ほとんど紗枝の一人舞台。演じる山田のパフォーマンス力の高さに、改めて感嘆の声を上げずにはいられなかった。

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