『イカゲーム』の世界的ブームにも通じる? 『地獄が呼んでいる』成功の理由
最近日本で、コロナウイルスのパンデミックの病床不足に対して、自治体の首長が命の選択を意味する「トリアージ」を宣言したことで物議を醸したことがあった。また、ある国会議員が列車に乗るときに人身事故が発生し、運行が遅れたことに対する不満をSNSに書き込んだことも問題になっている。現実に誰かの命が失われることに対する、このような麻痺した態度というのは、“人の死”が多かれ少なかれ自分たちにかかわりがあることや、自分に及ぶかもしれないという想像力の欠如からきていると思える。そんな“自己責任社会”は、いつか自分に起きるかもしれない危機や不幸に対応してくれるのだろうか。
われわれ自身もまた、自分や親しい人などに不幸な事態が起こらない限り、社会の中の“起こり得るエラー”としてしか、突然の“人の死”を考えられない場合がある。本シリーズで「死の天使」に宣告を受けることで、はじめてその人間の態度や考え方が一変する描写は、個人の命が軽く扱われる風潮を見せる現代社会と、それに麻痺した人々が少なくない状況を考えさせられる。
本シリーズの設定や展開は、そんなわれわれの社会や個人を取り巻く“死”の概念の状況を、あらためて提示することとなった。同時に、市民の不安に乗じることでデマが流布されやすい状況が生まれたり、カルト団体の勧誘活動が活発化するなど、まさに現在の社会問題が描かれていることも、重要な点だといえる。
「『イカゲーム』はなぜ世界中の人々の心を掴んだのか デスゲームとしての新たなアプローチ」でも書いた通り、『イカゲーム』の人気の源泉となったのは、韓国の内情を厳しく内省する態度と、そこで生まれる人間ドラマを中心に据える姿勢である。『地獄が呼んでいる』は『イカゲーム』ほどには、それらが徹底されていはいないが、二点をしっかり押さえた内容となっていることも確かである。だからこそ、本シリーズは“ネクスト『イカゲーム』”として期待されながら、視聴者を落胆させなかったのではないだろうか。
さて、日本の映画やドラマ作品は、このような現在の世界的な韓国作品ブームを、うまく利用することができるのだろうか。『地獄が呼んでいる』が押さえた点は、その鍵をわれわれに提示してくれてもいる。自分たちや社会をより俯瞰的な視点から内省することができるか。そして表面的なギミックよりも、あくまで人間を描くことを中心に置いた作劇や適切なキャスティングができるか……日本のクリエイターの世界的成功の一端は、その二点にかかっているといえるだろう。ただし、それらはいま多くの日本の映像作品が弱いといえる部分であり、喫緊の課題でもあるのである。
■配信情報
『地獄が呼んでいる』
Netflixにて独占配信中
監督:ヨン・サンホ
出演:ユ・アイン、キム・ヒョンジュ、パク・ジョンミン、ウォン・ジナ、ヤン・イクチュン