『最愛』真田ファミリーの闇は深まるばかり 加瀬と後藤が綴っていた、心に秘めた本音

 この世でたった5人しか持っていない特注のペン。それが事件現場である池の中に落ちていたとなれば、おのずと深く事件に関わっている人物は絞られる。果たして、誰があの現場にペンを落としていったのか……。

 金曜ドラマ『最愛』(TBS系)の第8話では、物語の主軸となる殺人事件の謎に輪をかけて、真田ファミリーの闇の部分が見え隠れ。クライマックスに向けて、視聴者の心を大いにかき乱す展開となった。

 渡辺昭(酒向芳)が遺体で発見された芝池公園の池から発見されたペンが、梨央(吉高由里子)の持つ“WELLNESS HOME”と刻印されたペンと同じものであると突き止めた大輝(松下洸平)。すぐにその事実を後輩の桑田(佐久間由衣)に報告する。

 大輝は捜査一課を離れ、梨央と「先のことを2人で考えよう」と告げた夜には、橘しおり(田中みな実)の死について「やめとこ」と自ら話を切り上げていた。にもかかわらず、こうして一連の事件の情報を提供することになったのは刑事としての職業使命からか、それとも「事件解決して薬ができたら……」と話していた梨央との“そのとき”を1日でも早く迎えたかったからか。

 “WELLNESS HOME”の赤いペンは約10年前に閉鎖された施設のオープン記念に、梨央の母・梓(薬師丸ひろ子)が特注品として作り、5人の身内に配ったものだった。その5人とは、梓、梨央、梨央の兄である政信(奥野瑛太)、梓の腹心である後藤専務(及川光博)、そして加瀬(井浦新)だ。真田ファミリーという家族の中に、昭殺害と深く関わった人物がいるというのは、にわかに信じたくない事実である。

 最も怪しい動きをしているのは、寄付金詐欺という不正を犯していた後藤だろうか。追い詰められた後藤からは、真田グループこそが自分の居場所であり「それ以外は何もないのだ」と本音を加瀬にこぼす。それは、貢献の仕方は違えど加瀬も同じ気持ちだと知っていたからではないだろうか。

 『最愛』では毎話ダイジェストを振り返るのと同時に、登場人物のモノローグが展開されている。それは、心に秘めた最愛のものを告白する語りといってもいい。第3話では加瀬が「人に見返りを求めてはいけない、求めなければ誰かを憎むことも蔑むこともない。憎まれることも妬まれることもない。それが生きていく上で1番大事なことだ。そう教えてくれた父と母は早くにこの世を去った。社会に出て真田家という家族を得た」とつづっていた。

 また、第4話では後藤が「私は自分を受け入れてくれたこの場所を何よりも大切に思う。寂しい人間と言われようと、それが私の人生だ」と話していたのが印象的だ。加瀬も後藤も、他に家族と呼べる人はもういない。血縁関係のない真田ファミリーこそが、自分の存在できる居場所であり、最愛のものであり、何よりも大切に守りたいものなのだ。その点では、同じものを見つめている。だからこそ、後藤のした不正が加瀬は歯がゆかっただろうし、加瀬に「君も私の立場になればやったはずだ」と言えたのだろう。

 同じものを愛しながらも、その守り方が異なるというのは、まったく異なる正義でぶつかり合うよりも心が苦しいものだ。なぜもっと早くに手を取り合えなかったのか、そうすれば同じ愛するものをもっといい方法でまもれたかもしれないのに……と。そんな2人だからこそ、大切な家族である梓からもらったペンをなくして気づかないなんてことはないのではないだろうか。ましてやもみ合いで池に飛んでしまうような持ち歩き方はしないのではないか。もしかしたら大切に保管している可能性もある。この世でたった5人の家族の証ともいえるペンなのだから。

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