『マジック&ロス』など計6作品がラインナップ リム・カーワイ監督の特集上映12月開催

 最新監督作『COME & GO カム・アンド・ゴー』が現在公開中のリム・カーワイ監督の軌跡を追う特集上映「リム・カーワイ監督特集上映」が、12月18日より大阪シネ・ヌーヴォ X、12月29日、30日に渋谷ユーロライブで開催されることが決定した。

 大阪を拠点に、香港、中国、バルカン半島などで映画を製作し、どこにも属さず彷徨う“シネマドリフター(漂流者)”を自称する、中華系マレーシア人のリム・カーワイ。2020年の第33回東京国際映画祭で初上映され、中国、香港、台湾、韓国、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ネパール、日本の9カ国・地域のキャストが出演する最新作『COME & GO カム・アンド・ゴー』が11月19日より公開されている。

 今回の特集では、“無国籍3部作”の第1作で初長編作となる『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』(2010年)、杉野希妃、キム・コッピ、ヤン・イクチュンが香港のリゾート地で紡ぐ幻想譚“無国籍3部作”の2作目『マジック&ロス』(2010年)、クリスマスの大阪・新世界を舞台に、異邦人の目を通して日本の今を笑いを交えて描いた“無国籍3部作”の3作目『新世界の夜明け』(2011年)、大阪・ミナミで交差する国籍、言葉を超えた、二つの異なるラブストーリー『Fly Me To Minami 恋するミナミ』(2013年)、バルカン半島を舞台に、妻に逃げられた男を主軸に、東ヨーロッパで現地の人びとと即興で作り上げた異色ドラマ『どこでもない、ここしかない』(2018年)、アジア人の女性バックパッカーの目を通して、バルカン半島の、歴史と変化に翻弄された人々の生活を活写したロードムービー『いつか、どこかで』(2019年)の計6作品が上映される。

 『COME & GO カム・アンド・ゴー』では、ツァイ・ミンリャン監督作品に多数出演するリー・カンションが出演、過去作『マジック&ロス』では韓国からキム・コッピ、ヤン・イクチュンが出演、『Fly Me To Minami 恋するミナミ』では元ミス・マレーシアで、2013年に香港で歌手デビューも飾ったシェリーン・ウォンや、2020年東京パラリンピックの閉会式にて総合演出を担当した小橋賢児が出演するなど、自らが交渉するスタイルで、斬新で多彩なキャスティングを実現させてきたカーワイ監督。

 また、『どこでもない、ここしかない』ではバルカン半島で撮影を決行するほか、『香港インディペンデント映画祭』を主催し、11月27日より全国5都市で開催中の『香港映画祭 2021』のキュレーターを務めるなど多様な活動を繰り広げてきた。

 カーワイ監督に加え、映画作家の小田香、映画監督の黒沢清、俳優のヤン・イクチュン、オダギリジョーらからコメントが寄せられている。

リム・カーワイ監督特集上映に寄せるコメント

リム・カーワイ監督

2019年6月4日にデビュー作『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』が北京でクランクアップしてから、あっという間にもう12年以上経ちました。先日、9作目となるロードムービー『あなたの微笑み』を、日本各地で撮り終えたばかりです。この10年間、ずっと大阪をベースにして世界各地で映画を作り、毎年年末には過去の作品をまとめてシネ・ヌーヴォが特集上映してくれるのが恒例になっていました。今回、最新作『COME & GO カム・アンド・ゴー』の劇場公開に合わせて、初めて東京でも開催できて嬉しく思います。『COME & GO カム・アンド・ゴー』をきっかけにして、私の過去作品にも興味を持ってくれたら幸いです。

小田香(映画作家)

大阪で活動していると度々リムさんと会います。
映画館や映画祭でリムさんにすれ違う度に、おそろしい熱量で今観た映画について語り、次に作る映画と次の旅のことも愉しそうに喋って帰っていく、突風みたいな人だなという印象でしたが、実際その身のこなしの軽やかさと、同時にある種の頑固さのようなものがユニークなかたちで共存している稀有な方だと感じます。『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』に魅せられてから、リムさんの作品はできるだけ追っていますが、どれも異なった映像言語で撮られ、リムさんという人間の謎をより深めてくれました。新作『カム・アンド・ゴー』ではどんな世界に連れて行ってくれるのか、リムさんの混沌がさらに広がるのか、拝見するのが楽しみです。

上映作品に寄せられたコメント

黒沢清(映画監督)/『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』

アジアのパワーと混沌が、ヨーロピアンな深い思索をもって構築され、最後にはまるでハリウッド映画のような興奮で観客の心を釘付けにする……世界映画の理想的なカタチがここにある。つまりこの作者はエドワード・ヤンがやったさらにその先を提示しようとしているのだ。彼の名前はリム・カーウァイ、是非とも覚えておかねばなるまい。

ヤン・イクチュン(俳優)/『マジック&ロス』

見たことのない奇妙なピクニックに皆さんをご招待します!

オダギリジョー(俳優)/『新世界の夜明け』

リムくんが映画を撮った。昔からの友達だし、見るしかない。それはムチャクチャで突っ込みどころ満載の映画だった。しかし、どこかで真実を突いているような気もした。そう言えば、昔からリムくんには口癖があったんだった。「笑うしかないね」。笑うしかないが頷ける。そんな映画。

濱口竜介(映画監督)/『どこでもない、ここしかない』

「今ここ」を自分の生きる場所と見定める主人公の姿は、自分のそのとき居る場所を映画にしてしまう、シネマドリフター林家威と重なる。見れば監督として、人間として尊敬せざるを得ない。

田中泰延(作家)/『いつか、どこかで』

リム・カーワイの世界ではつねに水が流れている。
横にたゆたう川面や海流は人が繋がる契機を示し、縦に落下する滝は人が断絶する瞬間を示す。
いま、コロナウイルスという滝に打たれている地球で、リム・カーワイは、いつか、どこかで人間が繋がるための静かな水面を写し続けている。

■イベント情報
「リム・カーワイ監督特集上映」
12月18日(土)~29日(水)シネ・ヌーヴォ X(大阪)にて開催
12月29日(水)・30日(木)ユーロライブ(東京)にて開催
主催:cinema drifters
公式サイト:https://cinemadrifter7.wixsite.com/mysite
公式Twitter:@LkWfilms

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